人を中心にした“まちづくり”

まちの魅力と課題をSUGATAMIで可視化し、市民一人一人のWell-being実現をめざす山梨市の取り組みとは

山梨市は人口3万3,419人(2023年3月1日現在)、甲府盆地の東側に位置し、ブドウや桃などの果樹栽培が盛んなまちです。同市で2023年3月7日(火)、「Well-beingまちづくりをめざした市民対話会」が開催されました。

これは、市がWell-being(地域・住民の幸せ)やサステナビリティ(持続可能な社会・環境・経済)を実現するまちづくりに、今後どのように取り組んでいくべきか、市民と一緒に考えていこうと開かれたもの。

まちの都市機能やそこで暮らす人々の満足感・幸福感などの指標から、地域の豊かさを可視化できるNTTグループのサービス「SUGATAMI※」のデータを用いながら、学生から年配者まで幅広い年齢層の市民12名と、高木晴雄市長、政策秘書課の職員が対話を通して山梨市のこれからについて考えました。

※SUGATAMIとはNTTグループによる、都市機能・そこで暮らすひとびとの満足感・幸福感などの指標から、その地域の豊かさを可視化し、まちづくりを支援する取り組みです。SUGATAMIは、インフラなどのパフォーマンスはもちろん、住民の気持ちのありかたまで可視化することで、その地域ならではの豊かさや特色、ポテンシャルをひも解くことができます。

まちの「いま」を映す鏡「SUGATAMI」
https://digital-is-green.jp/sugatami/

目次

市民対話会で明らかにされた山梨市の現状と課題

今回の市民対話会ではまず、市がさまざまなデータをつまびらかにし、それをベースに市民との交流を深めていきました。公開されたデータの1つが、SUGATAMIを活用した地域の豊かさを示す指標です。経済や交通・輸送、コミュニティや子育て、都市計画などまちを構成する18分野を分析した「都市機能スコア」と、市民へのアンケート調査から導き出した「住民満足度」をもとに、住み慣れたまちを客観的に見る視点を市民に提供して、対話の土台としたのです。

※画像はWeb記事掲載用のダミー数字を使ったSUGATAMIイメージ図です。

また、市の財政状況も分かりやすく提示。山梨市では2000年ごろから続く人口減少、少子高齢化が地域経済に与える影響により、財政難が大きな課題となっています。さらに、およそ140億円ある一般財源のうち、義務的経費を差し引くと、自由に使える予算は50億円ほどしかないということを明らかにしたうえで、限られた予算から効率よく財源を使っていく必要があることを市民に伝えました。

一方で、市にとってうれしいニュースも市民にシェア。それは、約20年ぶりに「社会増」が実現したことです。社会増とは、転入者数が転出者数を上回ること。ここ20年ほど転入者よりも転出者が多い傾向が続いていましたが、2022年は転入者が転出者を50人上回りました。特に0〜9歳、35歳以上の転入者が多いとのこと。コロナ禍で在宅勤務ができるようになり、通勤が不要になった人たちが郊外や地方に移り住むケースが増えていますが、都内まで1時間半圏内に位置する山梨市は、そのような人たちに魅力的に映ったのかもしれません。

また、シャインマスカットなど果物の人気が高まる中、新規の就農者数も少しずつ増えているとのこと。このような社会情勢の変化による人の動きなども、対話の種となります。

SUGATAMIを通してまちを見ると、知らなかった発見がある

SUGATAMIを通して山梨市を見ると、幸福度(Well-being傾向)が全国平均に比べて高いことが分かります。都市機能としては、「教育」「気候変動対策・エネルギー」「安全性」のスコアが高く、市民は「環境」「水」「安全性」に対して特に満足している傾向があるという結果に。都市機能スコアと住民満足度に差があるものは、「ギャップ」と捉え、市が市民にもっとアピールしたり、市民が市にさらなる機能アップを求めたりといった動きにつながっていきます。

高木晴雄市長は、SUGATAMIを市政に活用する意義について次のように語りました。「人口減少や少子高齢化などの課題に対する打ち手を導き出すには、山梨市が持っているさまざまなポテンシャルをしっかり顕在化していくことが重要だと考えています。SUGATAMIを活用して、私たちがまだ気づいていない市の魅力を掘り起こし、これからの山梨市のあるべき姿を模索していきたい」

山梨市の高木晴雄市長

また、より良いまちをつくるための政策ビジョンの振り返りにもSUGATAMIは有効だと、高木市長は語ります。「SUGATAMIのデータを通して、力を入れていたわりに教育の分野での住民満足度が低いなど、これまで気づかなかった課題が可視化されました。限られた予算を、最も効率的で効果的なところに割くためには、このようなデータを使った指針が役立ちます」

SUGATAMIを見た市民からは「予算を割いているわりに、満足度が低い項目があるのは、市民のニーズと施策がかみ合っていないのかも」「満足するというより、当たり前に思っているのでは」「他の市のデータとも比較してみたい」などの声が上がり、データをきっかけにしてさまざまな意見が交わされました。

さらに、「市を分析してデータを出すのは、市民だけでは難しい。データを見せてもらったことで、それを踏まえてどうやってまちづくりにつなげていけばいいか、次のステップを考える上でのヒントになった」「SUGATAMIには、住民の満足度などの意見も反映されているので、型にはまったまちづくりではなく、住民の想いをもとにした、独自のまちづくりへのきっかけになるのでは」といった声も聞かれ、市民目線でも、こうした指針がまちづくりのヒントになりうることが明らかになりました。

必要なのは市民の自主性と、つながり・支え合える場所

財政や施策、SUGATAMIによる山梨市の分析結果など、現在の市の現状を理解した後は、2グループに分かれてのワークショップへ。それぞれにファシリテーターとして政策秘書課の職員が1人ずつ入ります。参加する市民は、生まれも育ちも山梨市で市民活動に取り組んでいる人、別の街からの移住者、山梨市と関西で二拠点生活をしている人などさまざま。多様な視点から「どうすれば山梨市をより良いまちにできるか」をテーマに意見を交わす時間です。

高木市長も「忌憚のない意見をいただければ」と、市民と一緒のテーブルにつき、オブザーバーとして参加。市民の生の声に、真摯に耳を傾けました。

市民から次々と語られたのは、「行政と一緒にいいまちをつくりたい」という想い。「人口減少には、非婚化や非正規雇用が大きく関わっている。行政だけでは限界があると思うので、市民も一緒になって施策を考えていきたい」「行政に文句を言うだけでなく、地域全体で一緒にやっていけたら」「まちづくりを自分が担うことを、誇りに思えるようなまちになってほしい」といった、行政と共に何ができるかを模索する声が数多く上がりました。

さらに、2グループから共通の意見として語られたのは、人と人とをつなぐ場づくりの重要性でした。

「辛い境遇にいる人が悩みを話せて、さらに行政に相談するための橋渡し役となるような場所が必要」

「山梨市での働き方、輝き方が分かれば若い人がもっと増えるはず。市の魅力を知ることができる場所があるといい」

「熱意をもってまちや暮らしを良くしようと活動している団体は、意外とたくさんある。持続可能な活動にしていけるよう、行政に力を貸してほしい。そこからネットワークが広がって、人と人とのつながりができ、強いコミュニティが生まれると思う」

など、市民と行政が手を携え合って困っている人の声を聞き、手を差し伸べる場や仕組みを設けることが大切であると訴えました。

さまざまな意見が交わされ、予定時間を大幅にオーバーするほど、活気あふれるワークショップとなりました。総括としてグループの代表が語ったのは、「公共を担う人が多いまちにしていかなければ、まちの発展は難しい」という言葉。市民が自らをまちづくりに寄与する一員と捉え、行政と共により良いまちをめざして行動を起こす。それがこれからの山梨市には必要だということです。

今の山梨市に対する想いや意見を全員が紙に書き出していきます

市民との対話を通して、一人一人が主役になれるまちづくりを

高木市長は、市民対話会を開催した意義について「私は就任当初から、現場主義を貫いてきました。市民のところに赴いて、生の声を聞くことが最も重要だと考えています。本日の対話会を通して、市と市民の目線を合わせるためにも、このような場を頻繁に設けていく必要を強く感じました」と話します。

また、今後の展開については、「市民と直接対話できる機会を今後も重ねていきたいですね。そして、そこで吸い上げた声をもとに、最も効果的な予算の使い方をしっかり議論し、施策として打ち出していく。それをすぐに検証し、改善して、次につなげる。こうしたPDCAのサイクルを早く回して、なるべく短期的に課題解決につなげていくことが大切です。スピード感を持って、まちづくりに取り組んでいきたいですね」と語り、引き続き市民の声を政策に反映させることを重視する姿勢を示しました。

市民対話会に参加した田中さんと内野さん

山梨市と関西で二拠点生活をしている田中さんは、今回の対話会について「SUGATAMIのような客観的なデータがあると、住民同士が自分たちのまちについて建設的に話すきっかけになる。市の職員はもちろん、普段あまり話すことのない世代や職業の皆さんと、まちづくりという1つのテーマを掲げた話ができてよかった」と振り返ります。

また、市民グループでまちづくりの活動をしているという内野さんは、「普段は選挙によって代表を選び、間接的に声を届けることしかできませんが、このようにダイレクトに行政へ想いを伝えられる機会はとてもありがたい。ぜひこのような対話をこれからも続けていってほしい」と今後への期待を述べました。

山梨市と市民の双方にとって有意義な機会となった市民対話会。移住者増加の追い風や、SUGATAMIによる指標、そして市民一人一人の声。より良いまちづくりを進める上での土台が整いつつある今が、まさに山梨市のこれからを左右する分岐点と言えるのではないでしょうか。山梨市のWell-beingでサステナブルなまちづくりへの挑戦は、始まったばかりです。