人を中心にした“まちづくり”

実地体験を通して、まちづくりの「今」を学ぶUDCOストリートデザインスクール

アーバンデザインセンター大宮(以下UDCO)は、市民、行政、企業、教育・研究機関など都市を構成するさまざまな組織が広く連携し、まちづくりを推進する基盤として2017年3月に設置されました。

そのようなUDCOの取り組みの一つに、まちづくりについて学べる「ストリートデザインスクール」があります。このスクールは座学だけではなく、受講生が主体となって実際にまちづくりを経験する「社会実験」が特徴。受講生はそれぞれのグループに分かれ、担当エリアを活性化するべくアイデアを出し合い、企画・実行します。

本記事では、ストリートデザインスクールの成果と呼べる社会実験の様子をレポート。また、UDCO副センター長の内田奈芳美氏とUDCOデザインコーディネーターである石黒卓氏に、ストリートデザインスクールの取り組みについて伺いました。

目次

まちづくりを実地で学べる「ストリートデザインスクール」

2017年から、大宮駅周辺のあまり使われてない公共空間や施設を活用する取り組みを行ってきたUDCO。2021年度から、パブリックスペースを利活用するにあたってのノウハウを伝える「ストリートデザインスクール」を始めました。

開校のきっかけについて、石黒氏は「近年、全国的に公共空間の利活用から地域の活性化に取り組む地域が増えており、UDCOの取り組みに関する問い合わせが増えてきました。様々な立場からまちづくりに取り組むきっかけとしてストリートデザインスクールへの需要があると思っています」と話します。

UDCO副センター長の内田奈芳美氏 / UDCOデザインコーディネーターである石黒卓氏

スクールのコンセプトは、「大宮のパブリックスペースを舞台に、実際にひとを巻き込み、まちを動かす体験を」。一過性のイベントではなく、「社会実験」として街頭や沿道にある空間を活用し、街の課題解決と価値創出につながるストリートデザインを学びます。

「このスクールの最大の特徴は、座学だけではなく実地でまちづくりを行うこと」。その言葉通り、スクールのカリキュラムは次のように主体的で実践的です。

①インプット
研究者や全国各地のフィールドで活動している実践者の方々が、まちづくりについてレクチャーを行う

②フィードバック
大宮でなにができるか、受講生が企画を考える。考えた企画に対して、インストラクターからフィードバックを受ける

③中間報告会
地域住民や事業者、行政の方を呼び、意見交換会を行う

④フィードバック
意見交換をもとに方向性を決め、アウトプットに向けての準備をする

⑤アウトプット
社会実験として、公共空間を使った実践をする

⑥成果報告会
社会実験の結果をまとめ、地域住民や事業者、行政の方に成果を報告する

受講生は約3ヶ月間のカリキュラムを通して、制度や運営の方法、社会実験に協力してくれるお店との交渉など、ストリートマネジメントに役立つさまざまな知識とスキルを身につけていきます。

ストリートマネジメントスクール

「よく『地元に担い手がいない』と聞きますが、担い手がいないのではなく、見つけられていないだけの場合もあります。特に大宮は知られざる文化やコンテンツがたくさんあるので、埋もれているものに焦点を当てる、足を使って実際に見つけてくる、というプロセスが非常に大切です」

また、一緒にまちづくりをする仲間ができることも、スクールを受講する大きなメリットです。
2022年度もさまざまな方がスクールを受講しました。ビル管理をしている方や不動産関係の方、個人事業主の方、行政の方、学生の方など、受講生は年齢も職業もバラバラ。しかし、スクールを修了する頃には受講者から「このチームだからこそやり遂げられた」という声が沢山生まれたそうです。スクール修了後も、Slackなどで活発にコミュニケーションを取っている方も多いとのこと。

まちづくりにおいて貴重な人材を育成しているストリートデザインスクール。しかし内田氏は、「人材育成」という言葉に違和感があると言います。

「UDCOが『人材育成する』というのはおこがましいかな、と思います。人材育成というより、『体験を通して気づきを得てもらう』のがスクールの目的。受講生の皆さんに気づき方のヒントを伝えるため、インストラクターが並走します」

受講生が大宮のまちづくりを考えるとき、もっとも難しいポイントは「地域の皆さんに協力してもらいながら社会実験の計画をまとめていくこと」だと内田氏は語ります。既成市街地である大宮は、もともと宿場町であったことや、その後さまざまな産業が入ってきた背景があり、すでに多様なコミュニティが存在しているのです。

そのような地域の特性に向き合いながら、受講生や地域の方々とのコミュニケーションを経て、2022年11月12日にいよいよ「社会実験」として結実しました。

大宮の古着文化を届ける「大宮ストリートワードローブ」

2022年度の受講生は12名。6名ずつの2チームに分かれ、それぞれが大宮の街を舞台に新たなストリート活用のモデルとなるようなプロジェクトを具現化しました。

その一つが大宮駅東口から徒歩3分にある大宮門街(おおみやかどまち)前再開発エリアの歩道を活用したプロジェクト「大宮ストリートワードローブ」。週末は、約8,000人の往来があるこの通りに、大宮で営業する10の古着屋と2人の大宮拠点のクリエーター、2店舗のキッチンカーを誘致し、ストリートショップを展開しました。

「大宮は、狭い地域に古着屋さんが10店舗以上ある、知る人ぞ知るヴィンテージクローズの街です。
いわゆる老舗だったり、コワーキングスペースを併設したお店だったりと、古着屋さんの個性もそれぞれにあります。そのような地域の特色を訪れる人に知ってもらうためには、どのような施策がベストか。そのようなことを考えたことが最初のきっかけですね」と語るのは、チームのメインファシリテーターを務めた岡田朋子さん。

彼女自身、メインファシリテーターという肩書きですが、チーム6名の関係性はあくまでフラットだった、と言います。古着屋への交渉役、区画の使用条件や設置施設を精査する役、モックアップを製作する役など、チームメンバーがそれぞれの役割を担いつつ、意見を出し合いながら「大宮ストリートワードローブ」は完成しました。

岡田さんにストリートデザインの難しさを問うと「イベントと社会実験の違いについて、主催者と参加者との認識の違いがある」と言います。チームメンバー以外は出店者も含め、1日限りのイベントという認識があり、現時点でストリートデザインという言葉の意味や目的を伝えきれていない部分もあったようです。

「今回のように古着屋さんが並び、そしてパブリックスペースが人で賑わっているという風景が日常的ではない、と理解はしています。ただ、週末の風景の提案として、もっと古着屋がある風景が日常的になるように、次につながるような検討を重ねることが、ストリートデザインを学んだ意義だと実感しています」

知られざる街の魅力を伝える「さんきた」プロジェクト

一方、もう一つのチームが着目したのは、大宮の名所として初詣には約200万人が訪れる「武蔵一宮 氷川神社」。その参道の北側エリア活性を目的とした「さんきた(氷川参道北側エリアの略)」プロジェクトを提案しました。氷川参道の北側エリアは古くから続く居住区で、人の往来も参道を逸れると少なくなります。しかしながら、近年では住宅を活用したカフェや飲食店など、知られざる名店が増えている地域となっています。

そのような参道から住宅街に抜ける交差点角地、今回「さんきた」と名づけた住宅街の玄関口に、3つの飲食店の誘致を行い、ストリートマーケットを開催しました。チームのメインファシリテーターを務めた川崎正則さんは、「普段、参道やその近辺を歩いていると、わざわざ住居が並んでいるそのエリアに立ち入ろうとしません。そんな私たちの目線を、もっと俯瞰した位置から街を眺められるようにして、いいお店があるんだよ、と気づきを与えてくれるのが『さんきた』なのです」と語ります。

普段からこの場所はUDCOがストリートランチの出店場所として活用していますが、立地の特性を活かして新たな活用を行い、多くの人が参道北側に興味を持つきっかけを与えるスポットになる。社会実験当日はそんな光景が広がりました。

「普段の職場では、上下関係が必ずあります。ところが、このストリートデザインスクールでは、メンバーそれぞれが横並びの関係でアイデアを出しあっていく。その関係性はまちづくりにとって、とても大切な意義があると感じました。というのも、街の人たちとの交流や意見交換には立場も年齢も関係なく、さまざまな考えを交わし合う必要があります。まちづくりにおいて、多くの人とのコミュニケーションが地域発展に欠かせない、ということを学びました」

ストリートデザインスクールを通じて受講生が見つけた大宮の魅力

UDCOとしても今年度のスクールの大きな成果は、「古着という大宮にとって重要なコンテンツを可視化したこと」と、「新しいお店のオープンなど、動きつつあるエリアに『さんきた』と名前をつけてフォーカスを当てたこと」だと、内田氏は言います。

「今年は、受講生の皆さんにプロジェクトを展開する場所を『点』として提示しました。その結果、さんきたのように新しいエリアを発見して、『点』が『面』に発展したところが非常に興味深かったです。もう一つのチームも古着に着目したことで、『点』を通して古着屋さんのネットワークにつながり、『線』になりました」

まちづくりは、個人やお店、会社やプロジェクトなどの「点」をつなぎ、「線」や「面」にしていくことが求められます。そのため、内田氏は常に「つなぐこと」を意識していると言います。

「UDCOは、大宮のまちづくりに関わる人たちをつなぐチャンネルであるべきだと思います。大宮はこれから大きく変わるチャンスのある街。例えば緑を増やすためにはどうしたらいいか、スペースを有効活用するためにどうしたらいいか、考えることは沢山あります。それらを考えるとき、チャンネルとして機能するのが私たちの役割です」

「つなぐこと」に成功した今年度のスクールですが、今後の課題はあるのでしょうか。

「スクールの卒業生に、どうやったら希望する人に継続的に大宮に関わってもらったり、担い手としてのネットワークを継続してもらえるかが今後の課題です。スクール修了後もまちづくりに関わりたい卒業生が活躍できるように、現役の受講生とOB・OGをつなげてメンターとして学んだことを伝える場を設ける工夫をしたり、情報発信に力を入れたりしていきたいです」

最後に、UDCOの今後の展望について、内田氏に語っていただきました。

「まちを動かすには、様々な関わりしろとネットワークが重要ですが、例えば池袋のまちづくりでは街に関わる人々を『キャスト』と呼んでいます。企業も市民も小さなお店も、みんな一緒に街を動かしていく『キャスト』。これはとてもいい姿勢だと思います。UDCOのメンバーではなくても、まちづくりに対して意識を共有して動いている人達で、ゆるやかなコミュニティを築けたらいいですね。」多くの成果を得られたストリートデザインスクールは、2023年度も開校予定です。SSPPでは今後も、UDCOとストリートデザインスクールから生まれる、まちづくりの新たな形に注目していきます。