人を中心にした“まちづくり”

白えびを守りながら漁業と観光を発展させるために。富山の漁師たちが取り組む、持続可能な漁のカタチ

日本海には約800種類の魚種が生息しているといわれていますが、富山湾にはその6割に当たる約500種が生息しています。その水産資源の豊富さから「天然のいけす」とも呼ばれている富山湾には、世界中でここでしか水揚げされない貴重な海の恵みがあります。それが「富山湾の宝石」と呼ばれる「白えび」です。

かつて白えびは富山県民にとって身近な食材でした。しかし、地域外に広く知られるようになったことで魚価が高騰し、乱獲が進み、漁獲量が減少しました。さらにはあまりにも高価になったため流通が限られるようになり、魚価が暴落してしまいました。

このような危機的状況に立ち向かうべく、「富山湾しろえび倶楽部」を立ち上げ、持続可能な白えび漁のポリシーを掲げる、正喜丸*の船主、野口 和宏氏と、栄勢丸の船主、繩井 亘氏に、サステナブルな漁業を通した地域活性化についてお話を伺いました。
*正喜丸の「喜」は正しくは七が三つ

(取材時期:2022年11月)

目次

富山湾しろえび倶楽部 発起人/正喜丸 船主 野口 和宏氏(左)
富山湾しろえび倶楽部 発起人/栄勢丸 船主 繩井 亘氏(右)

突如はじけた北陸新幹線開業バブル

白えびが商業漁獲されるのは世界中で富山湾の新湊沖と岩瀬沖だけです。そのため、白えびは富山県民にとっては昔から身近な存在でしたが、県外ではほとんど知られていない食材でした。しかし突如、白えびの名称が全国に知れ渡るようになります。その要因の一つが北陸新幹線の開業でした。

北陸新幹線の開業に伴い、富山県は県を挙げて県内の名産品や観光地を全国にアピールしました。「富山湾の宝石」と県が命名した白えびも、キャッチコピーの効果や仲買業者の働きかけによって、全国の飲食店やスーパーに流通し、瞬く間に消費者から注目を集めるようになりました。

当時の様子について繩井氏は次のように語ります。「北陸新幹線の開業に向けて富山県が白えびをPRしてくれたおかげで、首都圏の消費者にも知られるようになり、需要が急増しました。それに伴い白えびの魚価も2011年から右肩上がりで上昇を続け、2016年には10年前のほぼ倍近くまで高騰しました。白えびはわれわれ富山県民にとってごく身近な存在で、手軽に購入できる食材でしたから、よくこんな値段で買う人がいるなと驚きしかありませんでした」

白えびの魚価が高騰を続けていた当時、白えび漁の漁師たちは白えびの価値を改めて認識し、収入の増加を喜んでいました。そして、これからも白えび漁は繁栄を続け、この好景気も続くものだと思っていました。

ところがブームの終焉は突如訪れました。白えびの需要が増加を始めた2010年から2011年にかけて漁獲量が減り始めました。漁獲量は減少しているにも関わらず、需要はさらに高まり、魚価は2016年まで高騰し続けました。そして需要のピークを記録した翌年の2017年、白えびの価格は一気に暴落し、10年前の平均以下にまで落ち込みました。

繩井氏が父の漁船に乗って白えび漁に携わるようになったのは、ちょうど白えびの魚価が暴落するタイミングでした。「当時、私は40歳くらいで家族もおり、この後何十年も白えび漁を続けなければ生活できません。将来に向けて不安しかありませんでした」と繩井氏は振り返ります。

漁と観光の両立で、白えびの認知拡大をめざす

正喜丸 船主 野口 和宏氏

富山湾しろえび倶楽部の発起人で、正喜丸の船主として白えび漁に従事する野口氏は、白えび漁についてこう語ります。「白えび漁は先祖代々何代にもわたって引き継いでいる家業で、われわれは白えびに生かされています。もしも白えびが富山湾からいなくなったら、と危機感を抱き、白えびを守りながら漁業を続けるために、自分たちでできることは何かないかと考え始めました」

その後、野口氏と繩井氏のような白えび漁に危機感を持つ数名の漁師が集まり、漁獲量を安定させつつ、白えびの魅力や白えび漁のをどのように世の中に訴求していくかについて議論を重ねました。その結果、新湊漁業協同組合(以下、新湊漁協)における白えびの漁獲ルールである「プール制」が、「サステナビリティ(持続可能性)」につながっていることに気付きました。そこで、この取り組みを主軸にして、白えび漁を観光客に体験してもらう「白えび漁観光船」や、白えびを全国の人に認知してもらうためのネットワークづくりに取り組むことを決めました。そして2020年4月、この取り組みの主体となる「富山湾しろえび倶楽部」が設立されました。

富山湾しろえび倶楽部の取り組みは「味わい」、「体験」、「参加」の三つで構成されています。「味わい」では白えびを使った新商品の開発支援やコラボ商品の開発、飲食店と連携したキャンペーンの展開などを行っています。「体験」では連携企画の企画運営や小学生との交流、マスメディアへの協力など、「参加」では協賛サポーターの募集やSNSを通じた白えびの認知拡大などを行っています。

これら三つの要素を網羅するのが白えび漁観光船です。白えび漁観光船が生まれたきっかけについて、繩井氏は次のように語りました。「白えび漁を体験してもらうことに加えて、取れたてのきれいな白えびを知って味わってもらいたい。そして富山湾から見る立山連峰の景色から、富山県の自然の豊かさを知ってもらいたいとの思いから観光船を発想しました」

白えびと絶景を同時に味わえるこの取り組みは、漁と観光を両立させ、地域活性にもつながると期待されています。

プール制の完全導入で、持続可能な漁を実現

前述の通り、富山湾しろえび倶楽部が新湊漁協の白えび漁および白えびの魅力として掲げているのが、「プール制」がもたらすサステナビリティです。プール制とは全ての漁船の1日の売上を集約し、各漁船に均等に分配する仕組みのことです。1970年代から新湊漁協で白えび漁にプール制を導入してきました。

白えび漁の漁獲量は漁船ごと、日ごとによって大きく変動し、それが魚価の変動にもつながります。プール制はこの不安定な漁獲量と魚価を安定させて、新湊の白えび漁を長年にわたって持続させるために導入されました。全体の水揚げ量を調整して水産資源を保護し、漁師同士での漁獲量の過度な競争を抑え、乱獲を防ぎます。

野口氏は「本来、漁師は他の人よりも多く取って収入を増やしたいと考えるものです。ですが、新湊の白えび漁のプール制は、収入が高い漁師も導入を認めました。これはそれぞれの漁師が、白えびという水産資源の保護だけではなく、漁師たちが助け合って漁業を続けていくということが、白えび漁の将来のために有益だと感じたからです。今後はこのプール制が、新湊漁協独自のサステナブルな取り組みであると、広くアピールしていきたいですね」とプール制について語ります。

新湊漁協では白えび漁を行う全ての漁船にプール制を適用したことで、網を引く回数を減らしながら、1網の漁獲量を大幅に増やすことに成功しました。効率よく白えびを水揚げできるようになり、取り過ぎを防いで漁獲量を回復しています。また、競争ではないため、漁のテクニックを漁師同士で教えあうことができるのもプール制の強みです。他船の漁獲高が増えると、自分の収入も増えるので、技術を共有しやすい仕組みだといいます。

水産エコラベルの認定取得を通して、地域の魅力を広めたい

富山湾しろえび倶楽部の活動によって、白えびの認知はさらに広がっているようです。富山湾しろえび倶楽部の設立時に、認知拡大のためロゴマークのデザインを全国に公募したところ約800件の応募がありました。現在採用されているロゴマークをデザインしたのは、高知県に住む人の作品です。富山湾しろえび倶楽部のメンバーは応募数の多さに驚き、白えびに興味を持つ人が全国にいることを改めて実感したといいます。

また、地元の新聞社やテレビ局などの取材依頼にも、富山湾しろえび倶楽部は積極的に協力しています。「以前は富山湾しろえび倶楽部の活動に焦点を当てていただくことが多かったのですが、現在は取材対象が白えび自体に変わってきています。また県外のテレビ局からも白えびに関する問い合わせが増え、われわれは白えびに関する問い合わせ窓口になっていますね」と苦笑する繩井氏。白えびがメディアで取り上げられて、観光客が増えることを期待しています。

栄勢丸 船主 繩井 亘氏

現在、富山湾しろえび倶楽部が力を入れている取り組みがあります。それは水産エコラベルの認定取得です。水産エコラベルとは、生態系や資源の持続性に配慮した方法で漁獲・生産された水産物を消費者が選んで購入できるように、商品にラベルを表示する仕組みです。野口氏は「これからの漁業はサステナビリティを意識しなければ、水産資源が枯渇する恐れがあります。われわれはプール制など持続可能な取り組みを実践している自負がありますので、その活動を認めてもらうために水産エコラベルの認定取得を進めています」と語ります。

さらに「水産エコラベルの認定を取得することで、他の漁業者や他地域の方々にも広く活動を知ってもらい、地域活性化はもちろんのこと、地域全体のイメージ向上につなげたい。認定取得には漁業者だけでは太刀打ちできないので、富山県や水産研究所の方々にご指導いただくとともに、費用に関しては行政に支援をいただきながら進めています。すでに水産エコラベルの審査は申請済みで、2024年3月までには認定を取得できるよう進めています」とその見通しを語ってくれました。

白えび漁を通したまちづくりについて野口氏は次のように語ります。「漁師だけでやるんじゃなくて、地元のスーパーから行政やマスコミなど多くの人を巻き込んで、白えび漁を盛り上げ、地元に貢献していきたい。富山には人口減少や、それに伴う公共交通機関の衰退などの課題がありますが、そういった諸問題も白えびを軸としたまちづくりによって解決へとつなげていきたいですね」

野口氏、繩井氏によると、富山県民は口下手で、自分たちの自慢をあまりしないという県民性があるそうです。しかし、富山湾しろえび倶楽部の漁師2人は、富山湾の白えびと新湊の白えび漁を全国に認知してもらうために、今後もあえて自慢話をしていくつもりとのことでした。

取材地:富山県・新湊漁業組合内『富山湾しろえび倶楽部 事務局』
https://shiroebiclub.net/