人を中心にした“まちづくり”

マインクラフトでつくる、アイデアあふれる未来の香川県高松市

瀬戸内の穏やかな気候に恵まれ、豊かな食文化と陸・空・海からのアクセスの良さも魅力の香川県高松市。JR高松駅を出てすぐのサンポートエリアでは、島々の間を船が行き交う景色を見ながら、人々が散策を楽しめる空間をめざして、まちづくりが進んでいます。

市民のなかでも特に未来の担い手である子どもたちに、まちづくりへの関心を促し、身近なものとして参加してもらうにはどうすればいいのか。多くの自治体が知恵を絞る中、高松市では幅広い世代に人気のゲーム「マインクラフト」に着目。

メタバース内で建築や探検を楽しめるマインクラフトを活用して、サンポートエリアの未来像を描くコンテストを開催しました。2023年11月25日に行われた最終審査会の模様や、参加者・関係者へのインタビューを通じて、デジタル技術を駆使した市民参画によるまちづくりの可能性を探ります。
(取材時期:2023年11月)

目次

ゲームを使って、まちづくりへの住民参加を促進

島々や行き交う船を眺めながら散策するのにぴったりなサンポートエリア

高松市では、人口減少や少子・高齢化への対策に向けて、地理空間データ基盤の構築によるインフラ情報のデジタル化・オープンデータ化の推進や、これに連携した3D都市モデルの都市政策シミュレーションなどを通じた持続可能なまちづくりの取り組みが進められています。

そんな中、2023年7月に高松市で開催されたG7香川・高松都市大臣会合を契機に、若い世代を含むさまざまな人をもっとまちづくりに巻き込むべく、「たかまつマインクラフトまちなみデザインコンテスト」が同年7月23日からスタートしました。

都市大臣会合のセッションが行われた国際会議場のある高松シンボルタワーや、総ガラス張りの高松港玉藻防波堤灯台(通称・せとしるべ)などがあるサンポートエリアの未来の姿を、マインクラフトのワールド内にデザインするというものです。

高松市主催のもと、国土交通省、香川大学、高松市教育委員会、一般社団法人香川経済同友会が後援するこのプロジェクト。高松市にとって初めての試みですが、プロジェクト全体に関わった高松市都市整備局の國方利美さんは「高松市には、前例がないことに積極的にチャレンジしてみようという雰囲気があります。新しいことに対する柔軟さとオープンさがあるのは高松市の大きな強みですね」と語ります。

高松市都市整備局 都市計画課の國方利美課長補佐

8月に2回開催されたワークショップには、コンテストへの応募を希望する小学生たちが集結。サンポートエリアを実際に散策しながら、市の担当者からまちづくりの仕組みや、マインクラフトの操作方法を学びました。

高松市の3D都市モデルを、マインクラフトに活用

参加者がコンテスト用の作品制作を始めるには、まず市が用意した「高松市サンポートエリアワールドデータ」を公式サイトからダウンロードします。このデータは高松市の3D都市モデルを用いて作られており、参加者が街をデザインする際のベースとなります。

「高松市は、国土交通省が主導している3D都市モデルを整備・活用・オープンデータ化するProject PLATEAU(プラトー)に参画しています。このプロジェクトで作られた高松市の3D都市モデルを、ワールドデータの作成に活用することができたのは大きなメリットでしたね。参加者がゼロから街をデザインするとなると難易度が上がり、時間もかかるため、子どもたちをはじめ多くの人の参加が難しくなってしまいますから」と國方さん。

データをダウンロードした参加者は、2つの部門から1つを選択して街を作り上げます。1つ目の部門は、理想の街を豊かな発想で表現する「未来のサンポートエリア」。小中学生の個人またはグループが対象の部門です。2つ目の部門は「2025年のサンポートエリア」。これは2025年までに再開発が完了する予定のサンポートエリアを想像して、リアリティのある街を作成するというもの。こちらに年齢制限はありません。

10月31日の締め切りまでに集まった33の作品の中から、一次審査を通過した16の参加者・チームが11月25日の最終審査会に招待され、プレゼンテーションを行いました。高松市長から香川経済同友会の専務理事 事務局長、大学教授、デザイナー、動画クリエイターまで多彩な顔ぶれの審査員8名により、各部門で最優秀賞と優秀賞の受賞作品が決定。特別賞も多数用意され、全ての参加者に賞が贈られました。

遊び心とサステナビリティにあふれた作品たち

岩井美咲さんの作品には、なんとロケット発射台が登場。高松市で実際に宇宙ロケット開発を行う団体から着想を得たアイデアで、ロケットの実寸を正確な縮尺で再現

最終審査会では、発表者がステージ上のスクリーンに映し出された作品の中を、コントローラーを操作しながら解説を行いました。緊張と興奮の入り混じった面持ちでマイクを持つ小学生から飛び出す愉快な発想、冷静に現代の都市問題を見つめた中学生が提示するソリューションの数々、大人の参加者によるゲーム実況動画さながらのプレゼンテーション。1つ1つが独創性にあふれ、審査員と観客を大いに沸かせました。

「未来のサンポートエリア」部門の最優秀賞を受賞したのは、小学生4人組の「チームちいたあ」。ウォータースライダーを街中に張り巡らせたり、解体が決定している丹下健三設計の旧香川県立体育館(通称・船の体育館)を高松城の天守台に移設したりと、大人の度肝を抜く自由なアイデアが散りばめられている一方で、水力・風力・ソーラーなどの自然エネルギー発電をインフラに取り入れるなど、地元愛と探究心にあふれた作品でした。

大西秀人高松市長から表彰状を渡され、笑顔を見せる「チームちいたあ」の3人(当日は1人欠席)

優秀賞は小学2年生の林明希さんと小学4年生の岩井美咲さんが受賞しました。林さんは、ゲーム内で水と動植物の生き生きした様子を見事に表現。夏に打ち水をする様子や、香川県のため池に関する研究から、子どもたちが安全に遊べる水辺や、微生物の力で水を再生するプール、多様な動植物が住む干潟や池、ビオトープなどのアイデアを生み出しました。

「人にも自然の生き物にも優しいサンポート」をコンセプトにした林明希さんの作品。作品内には、自然についての研究を行うビオトープも

「2025年のサンポートエリア」部門の最優秀賞を獲得したのは、マインクラフトを使った建築の様子を配信している動画クリエイターユキサンさん。ユキサンさんは作品内で、2024年3月にオープン予定の高松駅ビル「TAKAMATSU ORNE」や、2025年春にオープン予定の新県立体育館「あなぶきアリーナ香川」などの建物を、イメージ画像や資料をもとに忠実に再現しました。

建設業界で働く2人組「インフラDX四国チーム」と、動画共有サイトの配信者と視聴者の総勢20名から成る「ぶんぶく茶釜チーム」には優秀賞が授与されました。停車中、自動的に送電コイルから充電できるEVバスを作品に取り入れた「インフラDX四国チーム」。建設業界の高齢化が懸念される中、マインクラフトを活用して子どもたちに建設業の魅力を伝えるイベントなどを実施しているそうで、今回のコンテストに向け、勤務後も毎晩制作に励んだといいます。

一方の「ぶんぶく茶釜チーム」は、カーボンニュートラルをテーマに、風力や太陽光発電で市内全ての電力をまかない、市民の電気代を無料にするアイデアを提案。これにより転入者が増えて、高松市はさらに活気を増すはずだとアピールしました。

インフラDX四国チームによる作品では、高松駅の上に讃岐うどんが。スイッチを押すとお箸が動く仕掛けもあり、会場は大盛り上がり

審査員も驚く、子どもたちの発想の豊かさとリサーチ力

工夫が凝らされた作品は甲乙つけ難く、審査には時間がかかりました。審査員の1人、香川大学 経済学部教授の西成典久さんは、子どもたちの作品について「海と街が直結している高松の魅力を活かすために、空中のスペースを活用したり、移動にアトラクション要素を取り入れたりと、ユニークな発想の中に多くの気づきがありました」と絶賛。

香川大学 経済学部教授の西成典久さん

実際にサンポートエリアのデザインに関わっている、高松市エリアデザインアーキテクトのデザイナー坂口祐さんも、「一見突拍子もなく見えるアイデアも、実はちゃんと調べたうえで考えて組み立てられている」と高評価。

香川経済同友会 専務理事 事務局長の國村一郎さんは、高松市で現在進行中のプロムナード化(中心市街地を広場のように歩いて楽しめる空間にする計画)が、いくつかの作品の中に反映されていて、うれしいと語ります。「このように住民同士で意識の共有がしやすいところもコンパクトシティの良さですね」

香川経済同友会 専務理事 事務局長の國村一郎さん(写真左)

イベント後には、大西秀人高松市長からこんな言葉が。「既成概念のない子どもたちの発想に、よい意味で期待を大きく裏切られました。ゲームがまちづくりにこれほど貢献するとは、と驚いています。ゲームを通して楽しくまちづくりに関わってもらうことで、自然な形でシビックプライドが醸成されていくことに期待しています」

マインクラフトで広がる、新たなまちづくりの可能性

坂口さんは今回のコンテストを通して、まちづくりへのマインクラフトの活用に、本格的な都市計画に使えそうなほどのリアリティを感じたといいます。「『まちづくり』というと、どうしても大きな話に捉えられてしまい、自分にはあまり関わりのないものと思われがちです。でも、エンタメ性や凝ったビジュアルなどゲームの特徴をうまく使えば、より多くの人がまちづくりを身近に感じられるようになるのではないでしょうか」

高松市エリアデザインアーキテクトのデザイナー坂口祐さん

マインクラフトの実況動画で人気の動画クリエイターせぶーんさんも、クリエイターという立場からマインクラフトの可能性に言及。「例えば、ある地域をテーマにしたマインクラフトをいろんなクリエイターや視聴者と一緒に、アイデアを出し合いながら行えば、市民だけではなく何万人もの人が同時にまちづくりに関わることができますよね。そうすれば、多くの人がその土地を知るきっかけになりますし、ゲームに参加することでその街に愛着がわき、本当に行ってみようかなという気持ちにもなるはずです」

マインクラフトの実況動画で人気の動画クリエイター、せぶーんさんも審査員として参加

高松市都市整備局の國方さんは、コンテストの今後について次のように語りました。「子どもたちをはじめ、市民の街への思いがゲーム内でここまで表現されるとは驚きです。これを第1回として、何らかの形で来年以降も続けていきたいですね」

技術の発展が進み、メタバースゲームを活用した音楽フェスなどのイベントも人気を集める昨今。子どもから大人まで幅広い世代が関心を持ち、参加しやすいまちづくりをめざすため、メタバースや3D都市モデルなどのデジタル技術の活用が、高松市をはじめ、今後さらに各地の自治体で進むことが期待されます。