人を中心にした“まちづくり”

岡崎市、未来を拓く人材の育成・交流の場として「中学生フォーラム」を開催

2022年8月8日(月)、愛知県岡崎市朝日町にある市役所福祉会館の大ホールで「中学生フォーラム」が開催されました。参加者は、岡崎市に20校ある市立中学校から代表生徒各3人に特別活動部の教員を加えた、あわせて約70人です。2020年に岡崎市が「ゼロカーボンシティ」を宣言したことをきっかけに、“脱炭素社会の実現に向けて、どのようなことをしていけば良いのか” を中学生が考え、生徒同士で意見交換をする場として設けられました。

今、地球規模で問題となっている地球温暖化や環境問題、カーボンニュートラルについて見識を深める講座や、日本を代表する企業の取り組み事例の紹介、生徒同士が学校の垣根を越えて話し合うグループワークなどが実施されました。

目次

「2100年 未来の天気予報」から地球温暖化対策の重要性を再認識

地球温暖化は、人間の活動によって生じる「二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの急増」と「森林の減少」が主な原因とされています。このまま温暖化が進むと、2100年ごろまでに日本の平均気温は、最大4.8度上昇するといわれています。例えば、夏には全国で最高気温が35℃を超える猛暑日が60日以上続くことや、異常気象によって最大瞬間風速が90メートルもの巨大な台風が発生し、河川の浸水や土砂災害が頻発するなどの影響が予想されます。また、農作物の収穫量や品質に影響が出るなど、私たちの健康に大きな被害が及ぶ可能性もあります。

フォーラムの序盤では、環境省が作成した「2100年 未来の天気予報」の映像を流し、地球温暖化による人々の生活への影響を天気予報という形式でわかりやすく解説されました。人類にとって、今すぐにでも食い止めなければならない課題として、地球温暖化対策の重要性が再認識されました。

その上で、岡崎市も2020年から取り組んでいる「2050年カーボンニュートラル」実現に向けて、国や行政だけでなく企業や学校はもちろん、一人一人の生活の中で温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルの取り組みを行っていくことが大切である、という提言がされました。

豊かな未来の実現に向けた企業の取り組み事例

企業の取り組み事例紹介では、大成建設株式会社とNTTが登壇し、企業として行っているゼロカーボンへの取り組みや未来のまちづくりに向けた活動を紹介しました。地球温暖化という大きなテーマに向かって、日本中の企業がさまざまな形で協力し合っていることへの理解を促しました。

大成建設株式会社からは、ゼロカーボン事業として取り組んでいる「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」が紹介されました。ZEBとは、「省エネ」と「創エネ」技術を導入してエネルギー消費量を実質ゼロにする、人と地球に優しい建物のことです。建材として間伐材や廃材を利用するほか、外壁や窓そのものを発電装置としてエネルギーを作り出す「T-Green Multi Solar」、採光と遮光を同時に行う新型ブラインド「T-Light Blind」などの最新技術を取り入れ、既存の建物をZEB化する取り組みが推進されています。

NTTからは、グループ全体で取り組んでいる、新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」についての紹介をしました。NTTグループでは、「環境負荷ゼロ」と「経済成長」という背反する目的の同時実現に向けて、「事業活動による環境負荷の削減」と「限界打破のイノベーション創出」を推進しています。再生可能エネルギーを生かす技術開発を行うなどして、2030年度までに温室効果ガス排出量80%削減 (2013年度比)、2040年度までにグループ全体でのカーボンニュートラルを目標としていることを発表しました。

また、まちの都市機能やそこで暮らす人々の満足感・幸福感などの指標から、その地域の豊かさを可視化できる「SUGATAMI※」も紹介しました。
※SUGATAMIとは、都市機能・そこで暮らすひとびとの満足感・幸福感などの指標から、その地域の豊かさを可視化し、まちづくりを支援する取り組みです。
SUGATAMIは、インフラなどのパフォーマンスはもちろん、住民の気持ちのありかたまで可視化することで、その地域ならではの豊かさや特色、ポテンシャルをひも解くことができます。
まちの「いま」を映す鏡「SUGATAMI」
https://digital-is-green.jp/sugatami/

SUGATAMIを通じて、健康、環境、行政、教育、交通など、さまざまな視点で“岡崎市”を分析したレーダーチャートを見てみると「岡崎市は健康に対する水準が高い」、「経済は人口規模の大きい大規模都市平均と同等のスコア」、「都市の規模とレーダーチャートの輪の大きさは比例している」などの結果がわかりました。ではなぜ、健康に対する水準が高いのか? ――深堀りしたデータをのぞいてみると、他の都市よりも健康寿命が長いこと、特定健康診断受診率が高いことなども見えてきました。

※画像はWeb記事掲載用のダミー数字をつかったSUGATAMIイメージ図です。

SUGATAMIでいろいろなデータを比較することで、今まで知らなかった岡崎市の姿を見ることができた中学生たち。「岡崎市をデータで見ることができておもしろい!」、「岡崎市に誇りを感じ、このまちがさらに好きになった」、「岡崎市には魅力がたくさんあることが再発見できた」という声があがりました。

「今、わたしたちができること」――まちの未来を考えるグループワーク

フォーラムのメインプログラムとして行われたワークショップでは、『ゼロカーボンシティ実現後の中学校生活』をテーマに、「2050年ゼロカーボンシティ実現に向けて、わたしたちができること」を考えるグループワークを実施しました。学校の異なる生徒で3~4人のグループを編成し、学校の垣根を越えたディスカッションが行われました。

グループワークでは、自由な発想で物事を多角的に考察していく「ラテラルシンキング」や、一つのアイデアからさまざまに角度を広げていく「SCAMPER法」など、ビジネスの場で用いられる思考法を使って、一人一人、今の中学校生活や家での暮らし、岡崎市のまちの環境や人々の生活に思いをめぐらせながら、まちの未来について自由闊達(かったつ)に意見を交わしました。

各グループには、チューターとして岡崎市の職員、大成建設株式会社、NTTの社員らも参加しました。普段は接することがあまりない市や企業の人たちとの交流により、自分たちの意見を筋道立てて説明するヒントをもらったり、働く人の立場からの考え方を学んだりする機会になりました。

また、1人1台ずつ配られたタブレットに搭載された「コラボノート」というソリューションを使って、協働学習を実施しました。おのおのの意見をクラウド上に記載し、全員の意見をテキストマイニングして最も多く出た単語を投影し、グループの考えとしてまとめます。

生徒同士で学び合い、話し合う環境が自然と生まれました。生徒たちからは「初めて会う他校の生徒との交流でしたが、スムーズな意見交換ができ、いろいろな考えを学ぶことができました」といった感想が寄せられました。

リデュース(物を大切に使う)・リユース(繰り返し使う)・リサイクル(再利用する)の総称として知られる「3R」に、レンタル(貸し借りして使う)・リペア(直して使う)・リフューズ(要らないものは断る)を付け加えた『6R』という新しい取り組みを発想したグループもありました。

カーボンニュートラル対策というと、一般的には「電気を使いすぎない」、「水を大切に使う」など “我慢することばかり” なイメージがありますが「今あるものを生かす」、「違った視点から物事を捉える」など、前向きな気持ちで環境問題を捉えることを学んだ生徒も多いようでした。柔軟な思考からさまざまなアイデアが飛び出し、これからの未来に向けて夢や希望を感じるディスカッションとなりました。

企業の最新テクノロジーに触れる体験ブース

フォーラムでは、休憩時間などに企業の最新テクノロジーに触れることができる体験ブースを設置しました。大成建設株式会社からは電動キックボードの「mobby」、NTTからは鼓動の触覚化体験ができる「心臓ピクニック※」が出展されました。
※「心臓ピクニック」は、鼓動に触れて命を感じるワークショップです。聴診器を胸に当てると手に持った白く四角い箱(心臓ボックス)が鼓動に合わせて振動します。心臓の鼓動を手に感じることができるため、“自分や他人が一つの生命であると再確認”することができます。
触覚でつなぐウェルビーイング 渡邊淳司 研究サイト つながるツール 鼓動に触れるワークショップ「心臓ピクニック」
https://socialwellbeing.ilab.ntt.co.jp/tool_connect_heartbeatpicnic.html

「mobby」は充電が必要なバッテリーに対し、電源から無線で電力を供給する「ワイヤレス充電システム」を活用した電動キックボードです。路面に設置した太陽光発電ユニットで発電された電力を充電することで稼働します。現在、ワイヤレス充電技術の社会実装に向けた実証実験を推進しており、未来の新たなモビリティとして期待されています。

「心臓ピクニック」は、鼓動に触れて命を感じるワークショップです。聴診器を胸に当てると手に持った白く四角い箱(心臓ボックス)が鼓動に合わせて振動します。心臓の鼓動を手に感じることができるため、“自分や他人が一つの生命であると再確認”することができます。

心臓は生命を維持するために毎日10万回以上拍動していますが、私たちはその鼓動を緊張したときやけがをした時など、特別なとき以外に意識することはありません。

心臓ボックスの振動を通じて自分自身の鼓動を感じた中学生たちは、「私、生きてる!」、「なにこれ、不思議…!」と、体験に目を輝かせていました。友達の心臓ボックスを触って、自分の鼓動との違いを確かめるなど、互いに生命として存在している事実を再確認していました。

我慢しなくても、環境に優しく、生活も豊かになる取り組みを

生徒たちはこのフォーラムを通じて、地球温暖化を中心とした環境問題や岡崎市の未来について学び、自ら考え、意見を交換しました。

「今当たり前に思っている日常生活が、このままでは地球温暖化によって当たり前ではなくなってしまう。身近な対策からしていかなければ」
「グループで意見を出し合うことによって、今の地球の問題点がたくさん挙がった。一方で、一人一人にできることもたくさんあることが分かったので、これからは意識して生活していきたい」
「岡崎市に住む“誰もが”不自由なく暮らせるまちになってほしい」
「岡崎市のこれまで知らなかった魅力をたくさん知ることができた。課題もいろいろあることが分かった」
「今日学んだことを、学校のみんなにも伝えて、私たち未来のために一丸となって取り組んでいきたい」
など、生徒一人一人が、さまざまな思いを抱いたようでした。豊かな未来の実現のために、これからの行動を見直す良いきっかけになるとともに、同じ岡崎市に住む生徒同士がまちの未来を一緒に考えることで、まちへの興味・関心が深まり、さらなる愛着が生まれたようです。

また、参加した教員からは「日本を代表する企業の取り組みを企業の方から直接聞くことで、生徒たちは、社会にある現実を知る良い機会になった。また、ワークショップでは多面的、多角的な視点から物事を考え、意見を交わし合うことでたくさんの刺激をもらえたと思う。これからの教育現場にも生かしていきたい」という感想もありました。

2050年、カーボンニュートラルを実現する頃、社会のリーダーになっているであろう中学生たちの豊かな地球の未来や夢と希望にあふれた岡崎市のまちづくりのヒントとして、フォーラムで得た学びや気づきが生かされることでしょう。