人を中心にした“まちづくり”
「情報障がい者ゼロのまちづくり」を掲げ、未来を創る“チームOTAGAISAMA”
視覚障がい者にとって、街は数多くのバリアが存在する場所です。階段や段差、柱や設置物などは物理的なバリアとなります。また分かりづらい場所に設置された案内板や標識、そして周囲の人々の理解不足は可視化できないバリアと言えます。
そんなバリアをなくし、視覚障がい者ひいては全ての障がい者や情報障がい者、移動困難者をなくすことを目的にチームOTAGAISAMA(おたがいさま)は結成されました。今回は、彼らが普及を進めているナビタグを開発関係者の話を交え紹介しながら、チームOTAGAISAMAの活動内容を紐解いていきます。
目次
- 「研究施設」「病院」「ロービジョンケア」。眼科領域の交流点、神戸アイセンター
- まちづくりの新たな定義「ナビタグ」とは?
- チームOTAGAISAMAがめざす「見える人」と「見えない人」を区別しないまちづくり
「研究施設」「病院」「ロービジョンケア」。眼科領域の交流点、神戸アイセンター
神戸港内の人工島ポートアイランド。そこにチームOTAGAISAMAの拠点である神戸アイセンターはあります。ここは眼科領域において、再生医療の研究、最先端の眼科医療、社会実証を行う情報ケアが一体となった全国初の施設であり、視覚障がい者への高水準な治療とサポート、そして、すべての人が自身の人生を自らの意思で選択できる「自律への支援」を一貫して行う、世界的に見ても稀有な役割を果たす施設です。
「自立」ではなく、「自律への支援」としていることもチームOTAGAISAMAの哲学を示しています。必ずしもなんでも1人でできるように「自立」しなくてもいい、障がいや病気の有無は関係なく、誰かの助けを借りながらも、自分がしたいことを選択して決めて欲しい。「自律」という表現には、そんな想いが込められています。
この神戸アイセンター内に、チームOTAGAISAMAの事務局運営を行う公益社団法人NEXT VISIONの活動拠点ビジョンパークはあります。NEXT VISIONのスタッフである山田千佳子さんは、この神戸アイセンターの目的を以下のように語ります。
「眼科医療において、治療や研究はもちろん重要です、でもそれだけで終わってはいけない。〜〜〜治療に訪れる人とその周囲の全ての人にとって、長期的な視点で暮らしやすい社会を築く〜〜〜という使命が私たちにはあります。そんな想いのもと神戸アイセンターは設立されました。この場所で、視覚障がいのある方たちの治療や研究だけではなく、新たなソリューションの社会実証を行い、そして社会実装を実現させる。全ての取り組みが円環の関係を持ち、さまざまな人へ新たな価値を創出し続けることが私たちの描く理想像です。まずは必要な情報を得られない状態、『情報障がい』をなくすための交流地点としてビジョンパークを設置しました。NEXT VISIONは同施設を触媒に、世界中にインクルーシブな社会環境を広げるための活動を行なっています」
まちづくりの新たな定義「ナビタグ」とは?
NEXT VISIONの活動の1つに「チームOTAGAISAMA」の運営があります。
「このプロジェクトは、障がいや病気の有無、人種、言葉、年齢、性別などに関係なく、全ての人が楽しく、便利に、安全に暮らし、文字どおり人と人が、“おたがいさま”と支え合えるまちづくりを通じて、視覚障がいと視覚障がい者に対する理解を深め、広げることを目的として結成されました」と山田さんは語ります。
そしてその活動の1つに、ナビタグの普及があります。ナビタグとは、情報が埋め込まれた「タグ」とそれを読み取るアプリから構成され、視覚障がい者はもちろん子供や高齢者など全ての人に音声や振動で情報を知らせる、ICTを活用した情報提供システムの総称です。
タグは、施設の壁やインフォメーションボード、柱や床、屋外では道路に敷設された点字ブロックや信号機などさまざまな箇所に設置できます。アプリを起動してスマホをかざすとタグに埋め込まれた情報をキャッチし、音声案内や振動サインで必要な情報を知らせます。「タグ」には現在位置の状況や周辺情報など、管理者が必要と考える情報をあらかじめ設定することができるため、危険な場所を知らせたり、道を案内したり、さらには観光案内情報や飲食店の本日のおすすめメニューといった企業や商店が発信したい情報をユーザーに伝えることができるのです。
そして、このチームOTAGAISAMAには、3つのナビタグが参加しています。それが、NaviLens(ナビレンス)、コード化点字ブロック、shikAI(シカイ)というシステムです。全国で敷設が進むナビタグを知るため、それぞれの特性や開発経緯などを関係者に伺いました。
NaviLens(ナビレンス) / 北山ともこさん〈アイ・コラボレーション神戸〉
ナビレンスは、スペインで生まれた視覚障がい者向けのナビゲーションアプリです。5色の正方形が並ぶ特徴的なコードをスマートフォンで読みこむことで、道順や施設案内、バスや列車の発着情報などを音声で知らせてくれます。そんなナビレンスの特筆すべき機能は、A4サイズで約16メートル以上先でも読み込むことができる識別距離と、コードをプリントアウトすればどこにでも掲示できる汎用性の高さにあります。バルセロナでは地下鉄の駅やバス停など、街の至るところでナビレンスコードが掲示されているそう。そんな導入の経緯をNPO法人アイ・コラボレーション神戸の北山ともこさんが話してくれました。
「ナビレンスを日本に持ち込んだきっかけは『駅を自由に歩きたい』という障がいのある方の声でした。私たちアイ・コラボレーション神戸は、障がいのある方の就労支援の事業所として活動しています。と同時に、彼らの協力のもとユーザー診断やアクセサビリティに関する検証などの事業も行なっています。自由に歩きたい、という声を受け、当初は2次元コードとアプリを使うソリューションの開発を行なっていたのですが、スペインにすごいソリューションがある!という話を聞いて、現地に赴き日本でアプリを取り扱えるよう話を進めました。」
現在、日本でも美術館や博物館、病院などの施設単位で導入が進んでいるそう。 「私たちとしては、施設での導入はスタートラインで、将来的にはナビレンスを使ったまちづくりをめざしています。スペインではナビレンスコードが、電車やバス、飲食店や商店などあらゆる場所に掲示されています。日本でもナビレンスを浸透させ、誰しもに優しい街を作り上げることが私たちの目標です」
コード化点字ブロック(CBB : Coded Braille Blocks) / 松井くにおさん〈金沢工業大学〉、山口成志さん〈システムギアビジョン〉
マルとサンカクの黒いシールが貼り付けられた点字ブロック。実はこの印がつけられた点字ブロックこそ、ナビゲーションの機能を有するコード化点字ブロックです。スマホの専用アプリで読み取るとカメラの読み取った方向に応じて、その先に何があるのか、現在立っている位置がどのような場所なのかを、音声案内で聞くことができます。このコード化点字ブロックの開発者である金沢工業大学の松井くにお教授は、開発のきっかけを次のように語ってくれました。
「コード化点字ブロックの開発をスタートしたきっかけは、『目の見える人ほど点字ブロックが見えない』という問題があったからです。自転車を置いたり、荷物を置いたり、これはつまり点字ブロックが、情報提供のインフラの役割を為していないということです。目の見える人たちにも、点字ブロックが情報提供のインフラであるという意識を持って欲しい、という想いが開発の動機になりました。場所や施設のガイドがスマホから聞こえることで、視覚障がいのある方の一助となることはもちろん、目の見える人も点字ブロックの有用性を認識できると考えています」
視覚障がい者のためだけのナビゲーションシステムではなく、多くの健常者も利用できるようにすること、それはチームOTAGAISAMAの「世界中にインクルーシブな社会環境を広げる」という理念にも通じる考えです。
それではコード化点字ブロックの認知拡大のために、どういったアクションが必要なのでしょう。普及・販売を担うシステムギアビジョンの山口成志さんは、今後どのような形で社会に浸透させていくべきか語ってくれました。
「点字ブロックは日本を起源とする発明品です。それもあってか、全国各地の歩道や通路などさまざまな場所に敷設されています。マルとサンカクの組み合わせで、約3,000万種類のパターンをつくることができますから、それを使えばナビゲーションに限らずいろいろな情報を発信することができます。多くの人に浸透させていくには、例えばショップのインフォメーションやイベント告知など情報の付加価値を高め、コード化点字ブロックの可能性を広げる必要があると考えています」
shikAI(シカイ)/ 小西祐一さん〈株式会社LiNKX 取締役 相談役〉
「shikAI(シカイ)」は、駅構内の点字ブロックに貼ったQRコードを、専用アプリから起動したスマートフォンのカメラで読み取ることで、現在地から目的地までの正確な移動ルートを導き出し、音声で目的地までナビゲートするシステムです。現在、都内の地下鉄(東京メトロ)や大阪駅の一部エリアの点字ブロックに敷設されており、交通の要所となる駅を中心として着々と普及が進んでいます。開発したのは株式会社LiNKX。その開発経緯を同社取締役 相談役の小西祐一さんに伺いました。
東京メトロ東池袋駅から豊島区役所をつなぐルートで撮影
「視覚に障がいのある方が、事件に巻き込まれたというニュースを見たことがきっかけで開発をスタートしました。LiNKXは、システムやソリューションを作る技術を持っていたので、視覚に障がいのある人になにかできることはないか、と考えICTを活用したナビゲーションシステムを東京メトロに提案したんです。その提案が採択されたことで『shikAI』が生まれました」
「全ての人が安心して生活できる世界」という目標を掲げ、その実現のため普及を続けるshikAI。小西さんは、今後の展望とともに今ある課題も語ってくれました。
「人によって最終の目的地はさまざまです。小売店や飲食店、オフィスビルなど、その全てにナビゲーションをつけることは難しい。それならば、せめて目的地の最寄駅までは、利用者が何も心配せずに辿り着けるようにしたい。そのためのハブとなる乗り換え駅やバス停はしっかりとナビゲーションできるように普及を進めたいんです。ただ、これが一番難しい。なぜなら、鉄道会社やバス会社を跨ぐ敷設は、管理者が複数存在するからです。でも、私としてはその一番難しい課題に挑戦していきたい。shikAIを開発した意義は、色々な場所にストレスなく行けることですから」
チームOTAGAISAMAがめざす「見える人」と「見えない人」を区別しないまちづくり
本来であれば、話を伺った3社はいわゆる競合=ライバルです。ただ、ナビタグを広める上で、一社では乗り越えられない壁が存在します。それは、多くの人の認知・認識だと、山田さんを始め全員が口を揃えて言います。ナビタグが、いつまでもマイナーな市場であれば、視覚障がいのある人が求めるシステムは生まれないし、健常者の理解が深まることはありません。
チームOTAGAISAMAは、そんなナビタグの現状に変化をもたらし発展させるため、さまざまな企業や研究機関、教育機関の橋渡しを担ってきました。
「必要な情報が必要な時に得られるまちづくりは便利で安心な社会を実現することで物理的なバリアを失くすだけでなく、同時に人々の心のバリアも取り払うことにつながります」
チームOTAGAISAMAの未来への宣言には、見える人と見えない人を区別することのない社会を実現するための大切な意志が込められています。
チームOTAGAISAMAが推進する「isee!運動 ナビタグで未来を変えるプロジェクト」では、障がいや病気のありなしに関係なく、全ての方が自分らしく人生を楽しめる社会をめざし、ふるさと納税によるナビタグ(ナビレンス、コード化点字ブロック、shikAIなど)の敷設を行っています。
ふるさと納税のお申し込みについて詳細は下記サイトをご覧ください。
https://www.furusato-tax.jp/gcf/2400