人を中心にした“まちづくり”
食を通じて、地域の未来を創る、合志市デジタルキッチンプロジェクト
熊本市に隣接し、そのベッドタウンとして年々人口増加を果たしている熊本県合志市。さまざまな企業が進出する産業都市としての一面と、豊かな土地で採れる野菜や果物を特産品とする農業が盛んな一面を併せ持ち、魅力にあふれた土地として県内外でも注目を集めています。
そんな合志市で、食を中心とした地域資源を最大限に活用しよう、という目標のもとスタートした「デジタルキッチンプロジェクト」。今回は、実際にプロジェクト参加者が出店する合志市マルシェを訪ね、合志市がめざす「食を通じたまちづくり」とはどのような取り組みなのか、紐解いていきます
目次
「食」をキーワードに課題解決に臨む合志市
熊本県合志市は、熊本市の北東部に隣接しており、住環境・自然・農業・企業立地のバランスに優れ、通勤や通学に便利なまちとして人口増加を続けている、県内でも発展めざましいまちです。そんな合志市にも課題はあります。合志市産業振興部商工振興課の樋口良平さんは、市の課題と取り組みについてこのように語ってくれました。
「合志市は若年層や子育て世帯が増加している全国でも稀有なまちです。熊本市のベッドタウンとして、住環境の良さ、交通の利便性などが評価されており、また、子育てに適した施設や制度が充実していることも人口増加の理由と言えるでしょう。ただ一方で、観光資源の少なさ、市街化区域への人口一極化などさまざまな課題も抱えています。そんな課題を食をキーワードにして解決しようとする試みが『チャレンジ合志事業(創業支援)』『健幸こうし事業(買物支援)』『KOSHIマルシェ事業(イベント支援、ツーリズム促進)』『情報発信事業(地域観光物産、生産者情報のデジタル技術を活用した情報発信)』という4つの柱です。この4つの柱を軸にデジタルキッチンプロジェクトとして、地域の環境づくり、賑わいづくりを推し進めているわけです」
この「デジタルキッチンプロジェクト」こそ、私たちが注目した合志市ならではの取り組みです。食を通じて、合志のまちを豊かにする。そんなプロジェクトの目的と展望はどのようなものなのでしょう。
キッチンカーで人と食を支援するフードラボ合志
「デジタルキッチンプロジェクト」の全容を知るため、プロジェクト参加者のキッチンカーが出店する、合志市ひまわり公園でのイベントに伺いました。合志マンガミュージアムも隣接する広い敷地内では、ホットドッグやわらびもち、コーヒーショップや地元野菜の販売などのキッチンカーやテントがずらりと並んでいます。
合志市内外からファミリー層を中心とした数多くの来場者が訪れ、キッチンカーから提供されるさまざまなグルメを楽しんでいる様子は、まさに今の合志のまちの賑わいを表しているようです。このプロジェクトの仕掛け人である株式会社フードラボ合志 代表取締役 蔭山尊さんに、この取り組みのきっかけと目的について伺いました。
「私たちは2022年7月にスタートしました。『食』を通じてさまざまなコミュニティを繋ぎ、人と人との出会いの場を創出することを目的としています。きっかけはコロナ禍の影響で、苦境に立たされた合志市内の多くの飲食店を目の当たりにしたことですね。デジタルキッチンプロジェクトでは、そういった飲食店経営者や創業を考えていた方に向けキッチンカーでの事業のスタート支援、プロデュースをしています。そのほかにも今回のようなイベント(マルシェ)を企画・運営することで、地元の飲食店への収益貢献や、地元の人が集まる”場”の提供を行なったり、地元の農家さんと一緒に農作物を使った商品開発のサポートをしたりしています。合志市から食の新たな可能性を創出し、それを全国に発信していきたいですね」
キッチンカーという手法で、さまざまな場所を巡り、多くの人に合志市の食の魅力を伝えていく。自治体と地元企業が肩を組み、「食」を通してまちづくりを行なうデジタルキッチンプロジェクト。その魅力は、人と食を繋ぐ喜びにあるようです。
まちづくりを支える地域に根ざした「食」
そんなデジタルキッチンプロジェクトの参加者の一人が「Takajima Tomato Farm」の髙島歌奈子さんです。元来トマト農家が本職の髙島さんですが、なぜプロジェクトに参加することになったのでしょう?
「私たちの農園は6月いっぱいで収穫が終わって7月8月がまるまる休みになるんです。その2ヶ月間のお休みがもったいないな、と毎年感じていて。そんなときにフードラボのキッチンカー創業支援のパンフレットに出会ったんです。6月に取れたトマトを長期保存用としてピューレやホール缶に加工していたので、それらを使った料理を販売するのにキッチンカーはぴったりですよね。私たちの農園のトマトの味をひとりでも多くの人に知ってもらいたいですし。これまで自分たちの作ったトマトを出荷するまでが仕事だったんですが、キッチンカーでは味の感想をお客様に直接聞くことができてすごくやりがいを感じています」
デジタルキッチンプロジェクトの参加者は、髙島さんのように本業を活かしたい、将来店舗を持ちたい、多くの人に自分の料理を評価してもらいたいなど、動機はさまざまにあるようです。
地域に根ざした「食」を届ける人。そしてその「食」を求める人。合志市デジタルキッチンプロジェクトを手がけるフードラボ合志は、まさにその人たちの橋渡しの役目を担っているのではないでしょうか。イベント会場で食べものを頬張る子どもたち。その喜ぶ表情から、「食」によるまちづくりはスタートしている、と感じることができました。