人を中心にした“まちづくり”

SUGATAMIで地域の“今”を知って進める、北島町のまちづくり

徳島県北島町は、2023年6月にNTT西日本とICT連携協定を締結。まちの都市機能やそこで暮らすひとびとの満足感・幸福感といった指標から、その地域の豊かさを可視化するNTTグループのサービス「SUGATAMI※」を活用しながら、まちづくりを進めています。2024年6月には住民参加型のワークショップも開催し、住民の視点からより良いまちづくりのアイデアを募りました。同町の取り組みについて、北島町総務課 行財政改革推進室の杉本航平さん、NTT西日本 徳島支店 ビジネス営業部の山田浩貴さんに伺いました。

※SUGATAMIとはNTTグループによる、都市機能・そこで暮らすひとびとの満足感・幸福感などの指標から、その地域の豊かさを可視化し、まちづくりを支援する取り組みです。SUGATAMIは、インフラなどのパフォーマンスはもちろん、住民の気持ちのありかたまで可視化することで、その地域ならではの豊かさや特色、ポテンシャルをひも解くことができます。

まちの「いま」を映す鏡「SUGATAMI」
https://digital-is-green.jp/sugatami/

目次

ICT連携へとつながった、まちづくりへの思い

北島町 総務課 行財政改革推進室の杉本航平氏(左)、NTT西日本 徳島支店 ビジネス営業部の山田浩貴氏(右)

徳島県の北東部に位置し、約2万3,000人が暮らす北島町では、SUGATAMIを活用したまちづくりが進められています。

SUGATAMIは、経済や教育、環境、コミュニティなど、まちを構成する18分野を客観的に分析した「都市機能スコア」と、住民へのアンケート調査から導き出した「住民満足度」をもとに、“まちの状態”を可視化するツール。北島町がSUGATAMIを導入したきっかけは、同町のまちづくり業務を担当する杉本さんの「まちづくりをもっと数値化し、理論的に進められないか」という考えからでした。導入時の思いについて、杉本さんは次のように話します。

「以前から住民アンケートを取ったりしていましたが、その結果をどう解釈するか常に悩んでいました。例えば、ある項目の住民満足度が50%だった場合、それを高いと見るか低いと見るかは解釈が分かれますよね。個人の感覚で判断してしまう部分もあるでしょう。SUGATAMIを使えば、住民の評価に加えて、客観的な都市機能スコアも照らし合わせてくれるので、感覚で判断していたところからもう一段上に行けるのではと思ったんです」

こうした考えが発端となり、北島町では2022年からSUGATAMIの活用を開始。翌年にはNTT西日本とのICT連携に至りました。この連携でめざすのは、Well-being(地域・住民の幸せ)を高め、住みたい・住み続けたい北島町を実現すること。Well-being は、SUGATAMIが大切にするコンセプトの1つでもあります。

「私たちのような地方の小さな自治体にとって、これからの時代に人口を増やしていくことはとても大切です。とはいえ、一時的な施策で人口を増やしても、長くは続きにくいもの。まちのWell-beingを高め、結果として人口が増えていく。それが健全な姿であり、持続的な人口増加につながるのではないでしょうか」

NTT西日本の山田さんも、この取り組みに関わっている1人です。ICT連携では、「SUGATAMIを含めたまちづくりにおけるデータの利活用や、デジタル技術を活用した課題解決、まちづくり施策の効果検証など、幅広く協力しています」と話します。

SUGATAMIによって浮かび上がった北島町の姿とは

北島町では、これまでにSUGATAMIの調査を2回実施(2022年11月、2023年11月)。その結果、どのようなまちの“状態”が分かったのでしょうか。

最新の調査結果によると、都市機能スコアで高かったのは「教育」「経済」「人口・こども・子育て」の分野。一方、住民満足度では「健康」「安全性」「水」「住宅」などが高くなりました。これらをもとに北島町の「総合幸福度」を算出すると、全国平均と同水準という結果になりました。

杉本さんと山田さんが注目したのは、都市機能スコアと住民満足度に差があった項目です。例えば「教育」は都市機能スコアが高いものの、住民満足度はそれに比べてやや低い結果と、2つの間にギャップが生じていました。

このギャップについて、杉本さんは非常に大きな気づきだったと話します。「まちとしてはもちろん教育に力を入れてきましたし、都市機能スコアも高くなっています。しかし、だからといって住民の方々が満足しているとは限りません。悔しい面もありつつ、実態をしっかり把握できたのは良かったですね」

山田さんも「教育に対する住民の方の期待値が高いからこそ、こうしたギャップが生まれた可能性もあるでしょう。その“差”と向き合っていくことも、まちの幸福度を上げることにつながります」と続けます。

このような都市機能と住民満足度のギャップを解消する対策として、充実している都市機能をもっと住民にアピールして有効活用してもらう、あるいは住民の求める都市機能を付加していくことなどが考えられます。それにより住民満足度が上がると、まち全体の幸福度の向上にもつながるでしょう。

また、杉本さんはこの結果を見て、対策の「優先順位」をつける重要性も指摘します。「まちづくりの資源やリソースには限りがあります。18項目の満足度を全て同時に高めようとするのは現実的ではありません。都市機能と満足度の両方が低いものから手をつけるなど、データを見ながら優先順位をつけていくことが大切では」

SUGATAMIでは、18分野それぞれが地域の幸福度とどれだけ相関しているかも分析できます。北島町は教育と福祉が幸福度と相関が強く、かつ住民満足度の伸び代もあります。「この2分野を優先的に取り組むことが、Well-beingの向上につながりやすいのでは」と山田さん。まちづくりで優先的に取り組む項目がはっきりすることも、この取り組みで得られる資産ではないでしょうか。

まちづくりを「自分ごと化してほしい」と開いたワークショップ

2024年6月に開かれたワークショップの様子(プライバシー保護のため、画像に一部加工を施しています)

2024年6月には、住民が参加して「自分が住みたいまち・暮らしたいまち」を考えるワークショップも開催しました。これは北島町にとって初の試みだったと言います。

開催した理由について、「アンケートとは違い、住民の意見を深く知る機会を作りたかったというのがまず1つ。そして何より、まちづくりに直接携わる経験を住民の方にしていただきたい思いがありました。ワークショップを通じて、まちづくりをより“自分ごと”にしてもらえたらと」と杉本さん。

加えて、現在の北島町の総合戦略が住民の感覚と本当に合っているか、また今作られている次期総合戦略の骨子が住民の共感を得るものかを確認するという狙いもありました。

ワークショップは2日間開催され、22名が参加。参加者はいくつかのグループに分かれ、カードを使って対話をしながら、理想の北島町の姿や、そのためのボトムアップアプローチを考えました。

具体的には、まず「めざしたい理想の地域の姿」を各自で考えて共有。次に「北島町の現状」をグループで率直に話し合い、それらを踏まえ「理想の地域づくりのカギ」や「自身がとるべき行動」、そしてそれを「他の人に広げていく方法」などを考えていきました。

ワークショップは「ローカルダイアログ(※)」という、カードを使って対話しながら、理想の姿へのボトムアップアプローチを練っていくツールを用いて進められた
※ローカルダイアログは、ローカルダイアログ運営委員会が著作権を保有する著作物となります。名称やロゴマークは、ローカルダイアログ運営委員会のライセンスに基づき使用しています。

議論が進むと、グループ内で意見が割れる場面も。例えば北島町の現状について、ある人は不満を感じている項目でも、他の人は満足している、といったケースが出てきます。

「自分の住むまちについて、意見の異なる人としっかり話す機会は意外と少ないもの。こうしてじっくりと意見を聞き、すり合わせる時間はとても貴重だと実感しましたね。自分にとって不満のある点でも、別の観点で満足している人がいると、新たな視点が得られます。これからもこういった場を設けていきたいですね」と杉本さんはワークショップを振り返りました。

もう1つ、当日のワークショップで印象的だったのは、このまちに対する住民の熱意。ワークショップを運営した山田さんは「こうすればまちがもっと良くなるのでは、という熱のこもった意見がたくさん出てきました」と話します。また、北島町の特徴を聞くとすぐに答えられる人が多かったとのこと。「このまちが好きだからこそ、一人ひとりがまちの個性をしっかり捉えているのではないでしょうか」と続けます。そんな発見もワークショップの大きな成果でした。

住民の意見や声の「集合知」を活かすのもスマートシティ

杉本氏は、SSPPのフォーラム「"地域を主役としたサステナブルでWell-beingな"まちづくり2023」にも登壇

北島町ではこれからもさまざまな取り組みを行い、Well-beingを高めるまちづくりをめざしていくとのこと。NTT西日本とのICT連携によるスマートシティの推進もその一環です。杉本さんは、個人的な思いとして次のような目標を語ります。

「スマートシティとは、デジタルや最新のテクノロジーを活用した都市のことですが、英語の“Smart”には『賢い』という意味もあります。SUGATAMIやワークショップのように、さまざまな住民の方の意見や知識を集め、集合知として活かすのも“賢い”まちづくりにつながるのではないでしょうか。そうした取り組みをこれからも進めていきたいですね」

山田さんもその考えに賛同します。「デジタルやテクノロジーはあくまでまちづくりの手段。まずは住民の皆さんと『どういう地域にしたいか』という思いを合わせることがスタートです。技術中心ではなく、人を中心に考えていきたいと思っています」

住民の考えや声をもとに進める北島町のまちづくり。SUGATAMIはその手段として、これからも活用されていくでしょう。

「まちの政策の効果検証を行うツールとしても、今後SUGATAMIを活用できたらと思っています。それぞれの政策に対して、さまざまな数値がどう変化したのか。政策を評価し、それをもとにまた次の政策を考えていけたら良いですね」と杉本さん。

Well-beingを高めることで、住みたい・住み続けたいと思う人が増える未来をめざす、北島町の取り組みはまだまだ続きます。