人を中心にした“まちづくり”

青森の「クリエイト」高校生×商店街のまちづくり(前編)

名曲『津軽海峡冬景色』に登場する青森駅がある街、青森市。ここで15年前、高校2年生だった久保田圭祐(くぼたけいすけ)さんが立ち上げた団体「あおもり若者プロジェクト クリエイト」(以下、クリエイト)が活動しています。

地元の高校生が集まり、商店街をフィールドにまちづくりを実践。人口減少や高齢化といった共通の課題を抱える地方都市にとって、クリエイトの活動は未来を変えるヒントになるかもしれません。青森市へ足を運び、創設者で現理事長の久保田さんと西秀記(にしひでき)市長にお話を伺いました。

目次

商店主を「担任」とした、大いなる学びの場

クリエイトの発足は2009年。当時の青森市は2010年12月の東北新幹線の全線開業(新青森駅までの乗り入れ)を控えていました。街はさぞ沸き立っていただろうと思いきや、「首都圏へ人口が流出してしまうのではないか、観光客の受け入れ態勢が不十分ではないかといった、ネガティブなニュースが流れていました」と久保田さんは振り返ります。

そこに危機感を覚え、「東北新幹線の全線開業というチャンスに青森をもっと良くしたい、一大イベントに向けてベストな体制で臨める街にしたい」と、同級生5人と設立したのがクリエイトだったのです。

あおもり若者プロジェクト クリエイト創設者 現代表 久保田圭祐さん

当初の主な活動は、青森市の情報を発信すること。観光客が訪れた際に青森の隠れた魅力を知ってもらえるよう、各地域をまわって取材をし、Webメディアやフリーペーパー、インターネットラジオを使って発信していました。当時のクリエイトに対して地域の人たちは、「高校生ががんばってくれているから、応援しよう」と広告を出稿してくれたり、アパートの一室を格安で貸してくれたりと、協力的な姿勢で活動を支えてくれました。メンバーは、そのような地元住民に支えられながら地道に活動を続けたのです。

久保田さんたちが高校を卒業した後も、地元の高校生を募って商店街で期間限定のカフェを開き、経営体験の場を提供するなど、地域活性化につながる活動を継続します。取り組みを通して久保田さん自身が感じていたのは、「まちづくりに参加しながら、子どもたちは多くのことを学んでいる」ということ。そこで、2014年に組織をNPO法人化し、「まちづくりを通した教育に取り組む団体」として、通年のカリキュラムを設け、リスタートを図りました。

そうして始まったのが、「クリエイトまち塾」。青森駅前の中心商店街をフィールドに、商店主を「担任」、運営に携わる大学生スタッフを「副担任」として、高校生が商店街活性化に取り組む教育プログラムです。

主体的に街と向き合い、自分と向き合い、成長する

商店街をフィールドに選んだ理由3点を、久保田さんは次のように語ります。「1つ目は、学びの場としてちょうどいいスケール感であること。2つ目に、商店街は地域の資源が集まる場所という立地の優位性。最後は、商店主のような異世代の人、地域を良く知っている人と関わることは、高校生にとって有意義な経験になるだろうという想いです」

活動参加者は、毎年募集。各高校にチラシを配ったり、説明会を開いたり、SNSを活用したりしてPRし、例年20人から30名前後の高校生が集まります。参加動機は「まちづくりに興味がある」、「他校の生徒と交流したい」、「内向的な自分を変えたい」などさまざま。そのような中で久保田さんが高校生たちに一貫して伝え続けているのは、「3人称の提言より、1人称の実践」という理念です。

「高校生が役所へ行って考えや意見を主張したところで、何かがすぐに変わることはありません。それならば、自分たちで動いてしまった方がいい。誰かに要望を伝えてどうにかしてもらうのではなく、主体的にアクションして自らの力で状況を変えていく。それが何より大切だと考えています」

高校生を数クラスに分け、クラス内で地域の課題について話し合い、「ホームルーム」という活動で課題解決へ向けてアプローチしていくことが、「クリエイトまち塾」のカリキュラムです。各クラスに割り振られた担任(商店主)や副担任(大学生)は高校生を支え、導きます。過去には、高校生主導の商店街ツアーを企画したり、地元の中学生を対象に高校生が運営する「まち塾」を開催したりと、毎年多くのアイデアが生まれ、形になっています。

「課題設定や取り組みのテーマ設定、イベント企画なども含めて、基本的には高校生たちに一任しています。最初は学校の授業を受けるように受動的に参加している高校生たちも、『これは自分たちで全てやらなければいけないんだ』と気付いて、一生懸命、能動的に取り組むようになります」

参加し始めた頃はおとなしかった子が、いつの間にか議論のファシリテーターを担っていたり、堂々と人前で発表したりと、成長を目の当たりにすることも多いといいます。高校の先生が「この子は控えめだったのに、リーダーシップを発揮するようになった」と驚くケースも少なくないのだとか。

高校生の活動が、街にとって大きな存在に

クラスの担任を務める商店主は、月1回のホームルームへの参加とその準備、学生たちへのフィードバックやアドバイス、学生が企画したイベント準備の手伝いなど、決して楽ではない役割を引き受けてくれています。

ホームルームは各担任が用意した場所(電気屋さん、手芸屋さん、公共施設など)で行われる

「商店主さんのなかには、ホームルームの時間帯は店を閉めて手伝ってくださる方もいらっしゃいます。もともとまちづくりに想いがある方に依頼しているとはいえ、負担は少なくありませんから、とてもありがたく感じています」

一方で、ともに活動を続けるうちに、「商店街側の意識も変化している」と、久保田さんは話します。

「“高校生と一緒に協働している商店街だ”と、誇りを持って対外的にアピールしてくれるようになりました。私に全国の商店街の会合などで講演をする機会をくださったり、商店主から『こちらが学ばせてもらっている』と言っていただけたりと、クリエイトが商店街にとって良きパートナーになっていることをうれしく思います」

クラスの担任も務め、高校生の頃の久保田さんを知るシマナカヤストモさんにも、クリエイトの活動についてお話を伺いました。

「クリエイトの活動では、子どもから学ぶことの方が多いですよ。高校生の自由な発想や、メンバーに物怖じせず自分の意見を伝える姿を見ると、いろいろと気付かされることもあります。私はほとんど何もしていなくて、久保田くんからも『サポートしすぎないようにお願いします』と釘をさされていて……。たまに喉元までアドバイスの言葉が出てきますが、ぐっと飲み込んで見守っています。最低限のアシストはしますが、どのように取り組むのかは彼女/彼らが決めることですから」

クラスの担任を務める、シマナカヤストモさん 企画家としてイベント・商品開発・デザインの企画やプロデュースを手掛ける

また、クリエイトの活動を重ねるうちに、自治体との連携も少しずつ築かれています。青森市から、さまざまなワークショップを経て蓄積されたノウハウを生かして「ワークショップを企画してほしい」、「若い世代の声を聞きたいから協力してほしい」といった相談を受けて、事業を受託するケースもあるとのこと。地元の商工会議所や商工団体などにもまちづくりの活動は認識されており、アドバイスや協力を求められる機会があるといいます。

最近では、今夏にオープン予定の青森市アリーナ建設にあたって、「若い世代の感性を取り入れたい」と若者対象のワークショップの運営を受託しました。主体的に街と向き合って、地道に活動を続けてきたからこそ、まちづくりの協働者としてクリエイトの存在が認められているのです。

地方なら、高校生1人の力でも街を変えられる

市長就任以前から、長く商工会議所のまちづくり担当の役職に就き、クリエイトの活動を見てきた青森市の西秀記市長は次のように話します。

青森市の西秀記市長 2023年6月4日より市長就任

「青森市がより魅力的な街になるためには、若者だけでなく子どもから大人まで多世代が一緒になって交流する場をつくることが欠かせません。地域みんなで子どもを育てていくような、結びつきの強いコミュニティを復活させたい。互いに干渉し合わない都会的な付き合いを脱却して、人と人とが触れ合う温かい地元らしさがある街をめざします。

近年『ローカルファースト』という言葉がよく聞かれるようになりましたが、その実現のためには、これまで目を向けてこなかった地域の魅力を掘り起こす必要がある。それには若い人の視点が欠かせません。

ローカルファーストの意識が根付いていると、地元の個人店のカフェをより魅力的なものに感じることができるんです。商店街をフィールドにしているクリエイトのまちづくりの活動は、そこにリンクしてきますね」

取材へうかがった日はちょうど、西市長が「新しいまちづくり」をテーマに、クリエイトの高校生たちを対象に講義を実施。青森市が抱える課題、市として取り組むべき施策、それにまつわる予算といった、普段はなかなか聞くことのない市政の話に、高校生たちは真剣に耳を傾けていました。

講義の後には、「市民の声をどのように集めているのか」「まちづくりの活動を応援する仕組みはあるのか」など、高校生から西市長へ鋭い質問が投げかけられ、有意義な意見交換の場となりました。

西市長は、クリエイトが掲げる「1人称の実践」にも大きな共感と期待を寄せています。

「大都市では、街を変えるのはディベロッパーや自治体の役割です。でも地方都市は、市民1人1人の力が非常に大きな原動力になり得ます。高校生1人の力でも、街を変えることができるかもしれない。それが地方の良さであり、強みだと思っています。

自分たちの目で地域の課題を見て、それをどうしたら解決できるのかという視点で活動しているクリエイトの皆さんと一緒に、まわりの人に自慢したくなるような街をつくっていけたらうれしいですね」

商店街や自治体と連携しながら、15年もの歴史を積み上げてきたクリエイトの活動。<後編>では、参加している高校生の声をまじえながら、今年度の各クラスの活動内容を紹介するとともに、クリエイトがめざす世界観などについても深掘りしていきます。

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取材先:
【公式】あおもり若者プロジェクト クリエイト
【公式】クリエイトまち塾