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次世代のデータサイエンティストを育てよう! 和歌山県データ利活用コンペティション最終審査会レポート

2022年12月17日(土)、和歌山県和歌山市にて、「第6回和歌山県データ利活用コンペティション」の最終審査会が開催されました。同コンペティションは、全国の高校生・大学生を対象に、行政課題に対するデータ利活用のアイデアを募集。最終審査会では、書類審査を勝ち抜いた高校生チーム7組、大学生チーム7組の計14組がプレゼンテーションを行いました。
持続性・自立性のあるデータサイエンティスト人材の育成を目的に開催されている同コンペティション。学生の皆さんは、コンペティションを通じてどのような学びを得たのでしょうか? 本記事では、プレゼンテーションから表彰式まで、丸1日かけて行われた最終審査会の様子をレポートします。

目次

日本のデータ利活用を担う “データサイエンスの甲子園” が和歌山県で開催

全国にデータ利活用の重要性・有用性を発信するとともに、次世代のデータサイエンティスト育成をめざして、2017年から開催が続く「和歌山県データ利活用コンペティション」。年を追うごとに認知度が高まり、第6回目の開催となる今回は、全国から225組の応募が集まりました。

そもそも、同コンペティションが和歌山県で行われているのはなぜでしょう? それは、和歌山県が「日本のデータ利活用拠点」として、データ利活用に関する分析・研究や情報発信、人材育成、連携・支援に取り組んでいるからです。2018年4月には、総務省統計局の一部業務を担う「統計データ利活用センター」が、南海和歌山市駅ビルオフィス棟に開設されました。

2022年12月17日(土)、この統計データ利活用センターに、書類審査を通過した14組の応募者が集まり、和歌山県データ利活用コンペティションの最終審査会が行われました。参加者は「人口減少社会における人や企業をひきつける地域づくり」をテーマに、持ち時間をフルに使い、審査員の前でプレゼンテーションを実施。会場は、緊張感と高揚感が交ざり合う、まさに“データサイエンスの甲子園”といえる空気に包まれました。

10代らしいユニークな発想が光った高校生部門

高校生部門の参加チームは7組。高校生らしい豊かな発想が光るデータ利活用のアイデアを提案しました。

神戸大学附属中等教育学校の「あみどりなな」チームは、「あつまれ こうべwesternの森!」と題し、神戸市西区の地域活性について発表。神戸市中央区や明石市など活気ある地域に囲まれ、印象の薄れがちな西区を活気づけるにはどうすればいいか考えたことが、テーマ選びの動機となっています。

神戸大学附属中等教育学校「あなみどりなな」チーム(撮影時1名不在)

そもそも同校は、中等教育段階でのデータサイエンス教育モデルの構築を目指しており、普段から統計・データサイエンスのカリキュラムを実践しています。その素地のとおり、情報の収集力と咀嚼力が備わっていると言える同チームはまず、人口の流入・転出や企業分布データ、航空写真を使った土地利用の分析などをもとにして、西区の現状と課題を抽出。その上で、西区にゴルフ場が多いことに着目し、子どもから大人までゴルフを楽しみながらコミュニケーションをはかれる「westernの森」の設立を提案しました。

「データ分析から自分の考えを深めよう」といった課題に取り組むにあたり、仲の良い4人組でグループを組んだ後、コンペティションを知って応募したという「あみどりなな」チーム。「プレゼンテーションをする機会はなかなかないので、皆さんの前で発表できたことや、専門家の方からアドバイスをいただけたことはすごくプラスになりました。また、データ分析を通して、身近でありながらよく知らなかった神戸市西区のこと、そこにある地域課題を深く知ることができたことも学びになりました」と、メンバーは話します。

神戸大学附属中等教育学校「あなみどりなな」チームの提案資料より抜粋

香川県立観音寺第一高等学校の「たまごかけごはん」チームは、「商店街を活用した新しい保育による魅力的な地域づくり」を提案。香川県観音寺市では、待機児童数に対する保育施設の乏しさが地域課題の一つでした。親が安心して子どもを預けられる環境が、地域活性につながるのではと考えたことがテーマ選びの動機だと言います。

香川県立観音寺第一高等学校「たまごかけごはん」チーム

同チームは、LINEのオープンチャット機能でアンケートを実施し、1.大人の目が届きやすい、2.地域コミュニティに密接している、3.教育に必要なスペースや行事があること、の3つが新たな保育施設に求められる条件であると定義。その上で、商店街の中に保育施設を設立し、地域全体で子どもを見守る体制づくりを提案しました。商店街に新たな価値を加えることで、利用客が増え、地域活性にもつながると説明します。

香川県立観音寺第一高等学校「たまごかけごはん」チームの提案資料より抜粋

チーム全員が文系であり、データ分析は得意ではないと話す同チーム。しかし、今回のコンペティションに参加し「データを俯瞰することで、直接目に見えないものが浮き彫りになるとわかり、データ利活用の面白さに気づいた」と言います。
また、メンバーの一人は「商店街活性化と子育て支援は関係がないように見えますが、かけ合わせることで新しい施策を提案できました。一見関係がないことでも、データを見ればつながる部分があり、その発見がイノベーションに通じるんだと実感しました」と語ってくれました。

これら以外にも、都会に近く自然豊かな土地柄を活かした鬱病療養地の設立、農家体験×グランピングによる観光客誘致など、ユニークなアイデアが飛び出した高校生部門。テキストマイニングやクラスタリングなど、近年注目されているデータ分析技術を活用した点も、審査委員をうならせました。

大学生部門ではインタビューや実証実験を盛り込んだ厚みのある提案も

大学生部門の参加チームも、高校生と同じく7組。ビジネスマン顔負けの緻密なデータ分析を活かしたアイデアを提案しました。

同志社大学の「HIROSHI」チームは、「おかえり! 第2のe家!」と題し、人口減少と高齢化が著しい奈良県天理市の地域活性について発表。奈良県内で最も長く、全長1kmある天理商店街にeスポーツ施設をつくることで、地域の交流が生まれ、商店街の利用促進をはかることができるとアピールします。
同チームは、天理市民53名を対象に、独自の対面調査を実施。eスポーツのイメージや商店街の利用頻度などについて聞き取りを行い、定量解析を行ったそうです。

同志社大学「HIROSHI」チーム

リサーチやデータ分析など、役割分担をしっかり決めたという同チーム。eスポーツについては、メンバーそれぞれ馴染みがなかったものの、調査を進めていくにつれて肯定的に捉えられるようになったと言います。「新しいジャンルなのでデータの取得に苦労しました。ただ、体を動かして取得した対面調査のデータと既存のデータを組み合わせたことで、新しい提案ができたと自負しています」とメンバーの一人は話します。

同志社大学「HIROSHI」チームの提案資料より抜粋

武蔵野大学の「ブランデーの5秒前」チームは、北海道の人口問題に着目し、まず人口の推移や人口分布の偏りについてデータ分析を実施。その上で、本社を地方に移転した企業の状況を調査したそうです。
その結果、北海道に企業を誘致するための施策として、自治体とのマッチングサービスが最適ではないかという結論に。最終的に、「Connect」と称した企業と自治体のマッチングデータベースサービスを提案することに決めたと言います。

武蔵野大学「ブランデーの5秒前」チーム

コンペティションに参加した感想をメンバーに尋ねると「これまで、データをしっかりと使って分析する機会はなかったので楽しかったです。今回は北海道を舞台に選びましたが、どの県や自治体でも流用できるサービスを提案できたと思います。これをきっかけに来年からも色々なコンペティションに参加できたらと思います」と、今後への意欲を見せました。

武蔵野大学「ブランデーの5秒前」チームの提案資料より抜粋

このほかにも、消滅可能性都市脱却のための子育て支援施策や、スマート農業と空き家の活用を掛け合わせたベジタルイノベーションなど、近年の社会課題のトレンドを意識したアイデアが目立った大学生部門。既存データだけでなく、対面調査やインタビューを行い、「市井の声」に耳を傾けた点も評価につながりました。

データサイエンティストはこれからの社会で最も求められる職業の一つ

午前10時にスタートした最終審査会もいよいよ大詰め。全14組のプレゼンテーションが終了し、審査委員による協議を経て、表彰式が執り行われました。

表彰式に先立ち、審査委員長を務めた甲南大学名誉教授の稲田義久氏は「年々、データ分析のテクニックが向上してきていると感じます。質疑応答も手応えがあり、様々なケースを想定してデータを網羅的に見ていることが窺えました」とコメント。「ソフトの進化により、データの抽出及び分析は昔に比べて楽になりました。そこから何を見出すかが、データ利活用の本質です。今後は、コンペティションに参加した学生がOBとなり、次世代のメンターとして関わってくれたらいいですね」と期待を滲ませました。

講評を行う甲南大学名誉教授の稲田義久氏

また、今回初めて審査委員に加わった国立教育政策研究所の小林廉氏は、「学生の皆さんが地域に問題意識を持ち、データを根拠として提案性のあるプレゼンテーションをする貴重な場」とコンペティションを評価。「人口減少や空き家問題など社会課題が山積する今、高校生や大学生がまちづくりに関わることそのものに意味があると思います。出場した皆さんが、今回培ったデータ分析の力を、将来的に地域に還元してくれたらいいですね」と語りました。

国立教育政策研究所の小林廉氏

今回、大賞を受賞したのは、兵庫県立姫路西高等学校「ちょーおんぱ!」チームと、武蔵野大学「In the pink」チーム。両チームとも共通するのは、課題に対する適切かつ緻密なデータ利活用と、そこから導き出した解決策の実現性が高いことです。

「ちょーおんぱ!」チームは、「兵庫再生計画」と題し、空き家を活用した6次産業化の推進について発表。課題ありきでデータを利活用するのではなく、評価指標から課題を抽出した点が高く評価されました。

高校生部門で大賞を受賞した兵庫県立姫路西高等学校「ちょーおんぱ!」チームの発表風景と提案資料の一部

一方、「In the pink」チームは、「若者世代を射止める山梨県での新しいオフィスの形」と題して、空き家を活用したサテライトシェアオフィスの設置事業を考案。3DプリンターハウスやZEH(ネットゼロエネルギーハウス)など最新技術を駆使した新しいコンセプトのサテライトオフィスを提案した点も評価の対象になりました。

大学生部門で大賞を受賞した武蔵野大学「In the pink」チームと提案資料の一部。3Dプリンターハウスのモックアップもこの日のために仕上げていた

「In the pink」のメンバーは「私たちの挙げた案にはまだ日本に導入されていない技術も含まれており、このような技術をどう社会に広めていくかが重要だと、研究室でいつも話しています。コンペティションでは賞を獲ることも大事ですが、参加して経験を積み、今後の社会に活かしていくことが重要です。ぜひ皆さんも挑戦していただければと思います」と、後輩へのメッセージを残しました。

今回のコンペティションに出場し、学生の皆さんは、データ分析のテクニックだけでなく、データを通して社会や地域を俯瞰する目や、地域の課題に取り組む姿勢など、様々な知見と経験を得たことでしょう。
データサイエンティストはこれからの社会で最も求められる職業の一つと言われています。当サイトでは、未来のまちづくりを見据えた次世代のデータサイエンティスト育成をめざす和歌山県データ利活用コンペティションに、今後も注目していきます。

次世代の若者たちがデータ利活用の腕を競う。和歌山県が主催する「データサイエンスの甲子園」