CASE#1
秋田県 男鹿市
男鹿市からのまちづくりの挑戦
住民が描く「10年後の男鹿の姿」とは
秋田県西部に位置し、日本海に突き出す男鹿半島の大半を占める男鹿市。海と山に囲まれた東北の景勝地であるこの土地が「Co-design Project(以下CDP)」のスタートの場所となりました。男鹿市の地域創生の試みをともに伴走してくれるのは、デザインファームKESIKI代表の石川俊祐さん。
今回、まちを豊かにするためのアイデアのヒントを求め、実際に男鹿市を訪れ、住民とコミュニケーションを重ねてきました。CDP第1回では、その対話から見えた課題や暮らしている人たちの想いをレポートします。
目次
CDPの第一歩。住民との対話
美しい自然と伝統文化の残るまち、秋田県男鹿市。重要無形民族文化財の「なまはげ」で知られ、毎年2月に行われるなまはげ祭りには多くの観光客が訪れます。また男鹿半島は美しい海岸線で知られ、「入道崎」や「五能線」など絶景として多くの人を魅了しています。
そんな男鹿市は現在、新たな文化交流のスポットが増え、移住者や観光客でにわかに賑わいを見せ始めています。その仕掛け人とも言える人が、「クラフトサケ」という新ジャンルのお酒の醸造元として話題を集める「稲とアガベ」代表の岡住修兵さん。今回男鹿市とSSPPを繋ぎ、CDPのプロジェクトスタートのきっかけをくれた人物です。
会場は秋田駅から続く男鹿線の終着点、男鹿駅の至近にある地域交流拠点「テノハ男鹿」。秋田海陸株式会社の営業所をリノベーションし、地域の人々が自由に使えるようにした「みんなのリビング/みんなのテラス」と呼ばれる施設です。
岡住さんの呼びかけで、テノハ男鹿には菅原広二市長をはじめとする市役所の職員、秋田県内のデザイン事務所の代表、精肉店やアパレルショップのオーナー、稲とアガベのスタッフなど、男鹿ひいては秋田を愛する多種多様な人がテノハに集まりました。
急遽ワークショップという形で、交流の場が設けられる中、石川さんから発表されたテーマは「10年後の男鹿をどういうまちにしたいか」。参加者にはペンと付箋が手渡され、それぞれが描くまちの理想像を言葉で書き出してもらいました。その住民の言葉の中には、CDPの取り組みの種子となるアイデア、まちづくりのヒントとなる本質が眠っていると、石川さんは考えているのです。
集い、語る。男鹿への想い
『オガニック(オーガニックと男鹿をかけた造語)なまちに』、『小商い(こあきない)のまち』、『観光の地として、日本、世界に選ばれる場所に』など、ユニークな願いや地に足のついた願いなど、書き出された言葉はさまざま。そのどれもが、男鹿を住みよいまちにしたい、訪れる人に新しい発見ができる土地でありたい、という思いが込められています。そんな書き出した言葉が出揃ったところで、各々が「どのような想いを込めてその言葉を書いたのか」をプレゼンテーションしていきました。
菅原市長が記した言葉は『なまはげを新しい解釈で認知度の向上をめざす』というもの。その理由をこう語ってくれました。
「私自身、地域作りの根幹は農業だと思っています。地域経済の基盤となり、地元の雇用を生み出し、農産物の販売が地域の収入源となるからです。一方で、その地元の農業と密接に関連しているのが、観光業です。特産物や農産物は、観光資源となり得ます。また地元のまつりやイベントは、そのほとんどが農業に由来するものです。
『なまはげ』の認知向上を掲げたのは、そんな男鹿の農業を多くの人に知ってもらうためのきっかけになり得ると考えたからです。伝統的な風習は捉え方によって、アートや文化といった価値を備えています。『なまはげ』の新たな価値を創出することは、男鹿の認知拡大への第一歩になると考えています」
息づく文化を、守り伝えるとともに新たな価値を発見する。男鹿のまちを多くの人に知ってもらうために、変化を厭わない姿勢が市長の言葉からは伝わってきました。
「生きやすい」ことが男鹿の魅力
男鹿市は今、その住環境の良さや支援制度の充実により移住者も増えています。稲とアガベの店舗マネージャーの遠田葵さんもその1人。プレゼンテーションでは、願いとともになぜ男鹿への移住を決意したのか、を語ってくれました。
「以前暮らしていたいわゆる地元では、その土地や人間関係に誇りが持てない自分がいました。結婚を機に夫の地元である男鹿へ移住して、その土地柄に惹かれたんです。というのも、若者の未来を一緒に考えてくれる人、本気で考えてくれる大人がたくさんいたからです。岡住さんやここに参加しているみなさんもそうです。
今、地方では雇用不足が深刻化していますよね。私自身も、働く場所に悩みました。さらに少ない雇用の中からチャレンジする環境が見つけ出せるか、というとかなり難しいんです。ですが、男鹿市で稲とアガベのみなさんやまちの人たちに出会うことで、自然とやりたいことが芽生えました。そんなまちって全国でも珍しいんじゃないでしょうか」
参加者の一人は、さらに付け加えて言います。
「『生きる』ということをテーマにしたとき、男鹿はとても生きやすい場所だと感じています。それは、小さいかもしれませんがムーブメントが生まれているから。チャレンジしようとしている人が集まっているから、かもしれません」
最後に、ワークショップの参加者のさまざまな考えを受け、多くのインスピレーション得られた、と石川さんは締めくくりました。
「これまで、官民がバラバラに走って、別々の地点にゴールしてしまった、というケースを多くみてきました。年代や職業などさまざまな人たちが一緒に走ることができるまちというのはすごく珍しい。新しい事業を起こしたい人、新天地を求める人にとっては、とても魅力のあるまちだと、みなさんの話から感じ取ることができました。これからさらによいまちにするため、私もみなさんにアイデアをぶつけたいと思います」
そして、稲とアガベの岡住さんがワークショップで発表した10年後の目標は、『酒特区』の実現。彼が思い描く、日本酒を作りたい若者たちが集まるまちとは一体どのような地域なのか。次回は、稲とアガベの活動を紹介するとともに、そんな「酒特区」構想を石川さんとともに描き出す様子をレポートします。