人を中心にした“まちづくり”
青森の「クリエイト」高校生×商店街のまちづくり(後編)
青森県青森市で2009年に発足した、「あおもり若者プロジェクト クリエイト」は、地元の高校生が駅前の商店街をフィールドに、商店主と協働でまちづくりを実践する学びの場です。
<前編>に続いて<後編>では、理事長の久保田圭祐さんに加えて参加している高校生たちにも話を聞きながら、「クリエイトまち塾」の詳しい活動内容と生徒たちがめざす世界観などについて紹介していきます。
目次
地元を盛り上げる、三者三様のアイデアを形に
商店主を「担任」、運営に携わる大学生スタッフを「副担任」として、青森駅前にある「しんまち商店街」をフィールドに、商店街活性化の活動に取り組んでいる「クリエイトまち塾」。これは通年のカリキュラムで、今年度は18名の高校生を3つのクラスに分けて実施しています。3クラスの活動テーマの概要は、それぞれ次の通りです。
1組…国内外の港から青森港に寄港するクルーズ客船の乗客をターゲットに、ねぶたをテーマにしたイベントなどを企画し、観光を盛り上げる。ねぶた祭りの時期以外でも、ねぶたの魅力を味わってもらえるよう、地域の人たちと観光客が一緒に灯篭を制作する施策を思案。それを海に浮かべて客船を見送ることも検討している。
2組…規格外のりんごを使ったスムージー開発と商品化。1人の参加者の祖母がりんご農家で、多くの規格外りんごが廃棄されていることを知ったことから、それを活用して何かできないかと模索。スムージーのレシピを考案し、将来的には商品化をめざす。
3組…青森に訪れる外国人と、国際交流に興味がある高校生との交流の場を創出することがテーマ。交流場所として、フェリーが発着する以外は特に使用されていない埠頭を活用し、イベントを開催するプロジェクトを画策。
このうち2組は、活動の一環として、2024年2月24日にスムージーの試飲会を企画・開催しました。用意したスムージーは300杯。10:00〜、11:00〜、12:00〜と3回に分けて各回100杯ずつ配りました。
スムージー試飲会の様子。生徒たちのお客さんを呼び込む声が施設内をより明るくする
イベント当日は開店前に行列ができるほどの大盛況。開始30分で最初の100杯はほとんど捌けていました。試飲を終えた方にはアンケートの記入をお願いし、味などのフィードバックをもらいます。スムージーを商品化するという目標に対して、余念がありません。
各組は担任、副担任のアドバイスを受けながら、自分たちのアイデアを実現可能な企画にブラッシュアップして、3月の成果発表会で披露します。成果発表会は一般市民にも開かれた会で、希望者は誰でも傍聴可能。また、有識者による審査も行われるため、中途半端な発表にならないよう、高校生たちは悩みながらも一生懸命に取り組んでいます。
「もっと青森が好きになった」。地元愛を醸成
毎年、20名前後の高校生が自主的に参加を決めて応募するのがクリエイトのスタイルですが、皆どのような動機で集まっているのでしょうか。高校生たちに聞きました。
片山煌悠(かたやまこうゆう) さん(高2)
「僕は、他校の高校生との交流を目的に参加しました。同世代の人が地元の青森について思っていることと、自分が思っていることの意見交換ができればと。以前、日本全国の高校生と交流する場に参加して、それぞれの地元愛を感じる経験をしたんです。そのとき『青森の高校生は地元をどう思っているのか』を知りたくなりました。将来の夢である『起業』のためにもっと積極性を身につけたいと思ったことも、参加動機の1つです」
棟方夢生(むなかたゆめな) さん(高2)
「私は将来、『マーケター』になりたいと思っています。今までボランティアなどの活動はしてこなかったのですが、クリエイトのチラシを見て『将来の夢につながりそうだな』とピンと来て、参加することに決めました。普段は同世代としか関わることがないので、活動を通して商店街の方たちと交流する機会があることにも魅力を感じました」
関田日菜子(せきたひなこ) さん(高2)
「ある日、クリエイトのSNS公式アカウントからフォローリクエストが来たのがきっかけです。気になって見てみたら活動がおもしろそうで、縁も感じたので『行ってみよう』と思いました。大学は県外に行くと思うけれど、将来的には青森に戻ってきたいです。だからこそ、今のうちに地元のことをもっと知りたいし、もっと地元を好きになりたいという想いでまち塾に参加しています」
高校生たちは活動を通して、どんなことを学び、どんな成長を感じているのでしょうか。
片山
「商店街での活動のほかに、NPO団体の代表者や企業の社長、市長などの講義を聞く機会もあって、これまでに知らないことをたくさん知ることができています」
棟方
「スムージーの試飲会を開くのは初めての経験だったのですが、担任にたくさんアドバイスをもらって成功させることができました。将来の夢である『マーケター』についても、この活動を通して経験することができて、『夢を叶えたい』という気持ちがより強くなりました」
関田
「ある講義で聞いた“映画より自分の人生がつまらないなんて嫌だ“という言葉がとても印象に残っていて。普段、普通に暮らしている中では出会えない人に会ったり、貴重な話を聞いたりして、クリエイトの活動はとても自分のためになっていると思います」
活動に参加したことで、地元への想いや自身の考え方に変化はあったのでしょうか。
片山
「青森について深く考える機会になり、地元の魅力を再発見できました。青森は若い人が一度地元を離れてしまったら、なかなか戻ってこないことが課題です。若い人が暮らしたくなるようなまちづくりをしていくことが、とても大切だと感じています」
棟方
「青森には遊園地もテーマパークもないし、漠然と『県外に出たいな』と思っていました。でも、西市長のまちづくりに関する講義を聞いて、住みやすい街をつくるためにいろいろな施策をやろうとしていることが分かり、地元の将来が楽しみになりました。活動を通して、青森がもっと好きになっています」
関田
「大学で何を学ぶかが見つかっていなかったけれど、まち塾を通して『まちづくりっておもしろいな』と感じ、総合政策を学びたいという想いが生まれました。青森には、内にいると分からないけど、外から見ることで分かる魅力もあると思うので、若い人がそれをもっと理解できるように、クリエイトのような活動が増えるといいなと思います」
学生時代の関わりの有無が、地元への想いを左右する
高校生の地元に対する愛着を醸成し、人としての豊かな成長を促しているクリエイトの活動。これまでの成果と今後について、久保田さんは次のように語ります。
「人口減少、特に若年層の流出が著しいことが、青森市の大きな課題です。青森市だけでなく、全国の多くの地方が同じ課題に直面しているでしょう。そうした現状を変えていくためには、『街をどうデザインしていくか』が非常に重要なテーマです。県外へ出ても将来的に地元へ戻ってくる人や、地元への愛着やつながりを持つ人を増やすことが、キーポイントの1つだと考えます。
若年層の多くは、学校と家の往復が生活の中心になりやすく、地元をよく知る機会を持てない場合も多い。そうすると、例えば『地元の商店街はシャッター通りだ』『地元におもしろい店なんてない』というステレオタイプな考えを抱いたまま、県外に出てしまうケースが起こりやすくなります。それでは、地元に戻ってこようなんて思わないですよね。
有名チェーン店はないかもしれないけれど、魅力的な個店は豊富にある。それをクリエイトの活動を通して知ることは、彼女や彼らにとって大きな意味を持つはずです。地元の魅力と課題を知り、その解決のために思考や対話を繰り返す経験は、地元に特別な想いを抱くきっかけにもなるでしょう。
我々の活動は、毎年20人ほどの規模なのでゲームチェンジャーになるとは言えませんが、参加している高校生が『地元っていいな』『将来、地元に恩返ししたいな』と感じる導火線になればと思っています。そしてこの活動が、青森をより元気にする一助になると信じています。」
高校生と商店街の協働、高校生がまちづくりに主体的に取り組むクリエイトの活動が全国に広がれば、日本の地方は活性化していきそうです。とは言え、商店街や自治体が置かれている状況は多様で、同じフォーマットを当てはめてもうまくいくとは限りません。でも、久保田さんは「結局は『1人称の実践』に帰結します。だから、あきらめないでほしい」と語ります。
「まちづくりや地域活性化には、地域に対する想いが強いキーパーソンの存在が不可欠。熱い想いがあるのなら、誰かに訴えたり、頼んだりするのではなく、まずは自分が動いてみることです。それが大きな1歩になるはず。必要とあらば、クリエイトで培ったものを持って、僕が力を貸します」
青森をはじめとする地方のまちづくりにおいて、若者が主体となる活動は大きな可能性を秘めています。地域の課題を知り、その解決に向けて自ら考え行動する姿勢は、地域社会の活性化につながる重要なアクション。これからも、若者と地域が協力し合い、より良い未来を築いていくためのさまざまな取り組みが期待されます。