アドバイザー活動紹介

神戸アイセンターとビジョンパークに込められた想い

神戸のポートピアランドの一角に、最先端の眼科医療の研究から治療、社会復帰支援までが一気通貫で行われる「神戸アイセンター」があります。施設の設立を主導した高橋政代先生と、眼科医の三宅先生とともに、患者さんや目に障害を持つ方が「社会の中で不自由なく、活躍できるようにする」ことへの想いを語っていただきました。
(取材日:2020/4)

目次

髙橋政代先生(左)と三宅琢先生(右)

株式会社ビジョンケア 代表取締役社長、公益社団法人 NEXT VISION 理事 髙橋 政代

京都大学医学部を卒業し、1992年に同大の医学博士を取得。京都大学助教授を経て、2006年に理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター へ異動。2019年7月まで理化学研究所 生命機能科学研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクトのプロジェクトリーダー。現在、ビジョンケアの社長として、目の難病治療に細胞治療に限らず新しい治療法を取り組む。

株式会社 Studio Gift Hands 代表取締役 三宅 琢

東京医科大学を卒業し、2012年に同大学眼科大学院卒業。2014年に神戸理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクトへ参画、また同年7月より株式会社ファーストリテイリングの本部産業医として勤務。2014年に株式会社 Studio Gift Handsを設立し、ロービジョンケアのコンサルタントとしても活躍。

先進医療、ロービジョンケア、福祉で視覚障害の課題を解決:神戸アイセンター

iPS細胞による網膜再生医療開発がきっかけとなって、2017年末に神戸アイセンターを作りました。ここでは、「あらゆる手段で視覚障害の課題を解決する」ことを目的として、研究、治療開発、眼科医療、患者ケア、福祉窓口、がワンストップとなっています。GoogleやAppleが医療に参入しつつある現代、「今後の医療は10年で様変わりするだろうし、様変わりさせないといけない」と感じたからです。また、治療の発達よりも障害者などを助けるデバイスや技術などの進展の方が早く、患者さんをケアするのに医療だけでは不十分であるという現実もあります。

神戸アイセンターの構成

神戸アイセンターは建物の名称で、以下の4機関が店子として入っている寄り合い所帯です。

  • 理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクト
  • 公立病院として初めての眼科専門病院である、神戸市立神戸アイセンター病院
  • 公益社団法人NEXT VISION(ネクストビジョン)が運営するエントランスフロアのビジョンパーク
  • 研究室や病院から生まれるシーズを事業化する株式会社ビジョンケア

先進医療とロービジョンケア

神戸で育っているiPS 細胞を用いた網膜の再生医療も、他家移植という第2のステージを終え、治療としての可能性を追求する段階に入ります。順調に推移しており、患者さんの期待はますます高まりますが、残念ながら現実の初期再生医療では、正常に戻るまでの視機能回復を望めません。このことから、期待の大きさに比例してロービジョンケアや術後のリハビリテーションがますます重要になります。先進医療とロービジョンケアや福祉が、両輪として発達する必要があるのです。

このような考えに至ったのは、もともと再生医療の対象となる網膜の難病の専門外来を担当した際に医療の問題点に気付いたからです。医療以前に、間違った情報や情報不足で人生の意味を見失う人たちがとても多いのです。何とかして、その方達に正しい情報や有用な情報を伝えたい。現在の医療には限界があるとしても、その情報で少しでも笑顔で帰ってもらいたい。ロービジョンケアは単に道具を与えるものではなく、患者の気持ちに寄り添い、人生を豊かなものにするための全人的医療とも言えるものです。徐々に進行して治療法のない遺伝性疾患の患者さんに対しては、視機能が良い時期からロービジョンケアが必要です。

福祉とインクルーシブ社会

また、福祉に対しては、次のようなことを感じました。福祉は障害の中でも重度の所にフォーカスを当てて、保護、補助すべき対象として作られてきましたが、障害者の中では重度の方はむしろ少数であり、その他多くの軽度から重度までの様々なグラデーションの障害の方が社会に混じって存在しているということです。これは眼科の医療現場でしかわからないことです。多くの視覚障害者は、障害を隠して働き、生活しています。実はその障害によるニーズは社会を前進させ技術革新を起こさせる価値(バリアバリュー)を持っているのですが、まだ社会は気づいていません。その価値を元に事業を起こすための会社組織が必要だと感じました。

今まで、福祉制度は重度障害を対象に作られてきました。一方で、社会はあたかも健康で障害のない人だけが存在するかのように作られています。それでは真のインクルーシブは起こり得ません。社会にすでに混在している、軽度から中等度の障害の方々を対象に社会を形づくれば、正常であらねばならないという強迫観念にとらわれている人たちも、重度の障害者も地続きとして、真のインクルーシブ社会になるのではないかと思っています。そうすれば、障害者という「向こうの世界」に陥る恐怖に苛まれている患者さんたちも楽になる。そういう意味では、ほぼ健康な人からあらゆる程度の障害、疾患の程度の方が集まる病院は、まさに本当の社会の縮図です。その病院で、「程度を問わず不自由な部分を持つ人が安心してカミングアウトでき、混ざって助け合い楽しい気持ちになれるところを作りたい」「真のインクルーシブ社会のひな形を作りたい」というのが、神戸アイセンターのメインフロアに設置したビジョンパークを作った理由です。

過ごす人すべてがともに気づき、学び、成長できる空間:ビジョンパーク

ビジョンパークは視覚障害により失われた日常生活を取り戻せる「学びと気づきの公園」であり、社会と人をつなぐ「成長する空間」です。
次の目的で設計が始まりました。

  • 視力低下による困難さを抱える人々が、生きる意欲を取り戻すための気づきを提供する
  • 当事者と支援者が、ともに挑戦して成長できる体験を提供する

デザインの特徴として、視覚障害者には危険な存在とされてきた段差を、廃止するのではなく積極的に設置しています。当事者が白杖を使って学べる、安全なレベルの段差で各エリア間を区切りました。段差によりグラデーションを持って分けられた高低差のあるエリアは、失明宣告による失望や悲観、自然からの癒し、生きるための情報取得の意欲、社会への接続と仲間作り…などの、視覚障害に対する受け入れの状態や感情のレベルに合わせた空間体験を提供しています。
具体的には、次のような空間が存在します。

  • 太陽光に癒される、青の空間
  • 自然の色彩や自然音に心を癒される、緑の空間
  • 医療・福祉・教育・趣味など多分野の情報提供の機会の提供を得る、茶の空間
  • スポーツや趣味などの活動性の高い当事者と多様な過ごし方を提供する、橙の空間
  • 就労・就学環境をシミュレートする、白の空間
YouTube動画:病院へ遊びに行こう Vision Park

多様な形状のベンチや使い方を規定しないキッチンエリアなどがあることで、多様な人々が自然に交わることができます。これを通じて、次のことをめざしています。

  • 視覚障害者が、視力低下により失われた日常を取り戻す
  • 晴眼者や医療者をはじめ空間を共有する人々が、見ることの本質への気づき体験を得る

視覚障害者は、目に障害のない人よりも五感を通して空間を楽しめる工夫を試みていることが多いです。ビジョンパークでは、身体的な空間認知を助けるために幾つかのレイヤーを重ね合わせることで、既存の手すりや段差解消のためのスロープの代替となるように考慮しました。また、身体の延長としてのベンチと本棚などを兼ねた家具の渦巻き状配置、リズムのある段差、床材の硬さ、柔らかさ、色彩のグラデーション、などを工夫しており、2019年には世界3大デザイン賞の一つ、IDEA賞銅賞を受賞しました。

これらデザインを導入するにあたり、私たちは設計プロセスにおいて視覚障害者と共に実寸大の模型による検証を行い、何度か使っていけば使いこなせる安全な段差をはじめ、挑戦と成長を生む環境を作ろうと試みました。

模型を使って使用感や安全性を検証した際の、当事者の前向きな発言は、私たちや関わった数名のデザイナーを大いに励まし、この挑戦的な空間を実現する勇気を与えてくれると同時に、私たちの障害者へ抱く偏見を覆し、彼らの成長という可能性に気づかせてくれました。

Vision Park 内観動画

ビジョンパークは、これまでの常識の枠を外して、空間の主体者を安全運用する管理側ではなく、利用する視覚障害者側としています。視覚障害者の想い、気づき、成長などに焦点を当てた空間デザインです。
高齢社会に突入した現在の日本で、医療資源が限られている中で障害種別にとらわれることなく、そこで過ごすすべての人がともに気づき、学び、成長できる場作りも新しい医療の形であると私たちは信じています。ビジョンパークは、そのような新しい医療を生む空間として、スタッフを含めて当事者とともに成長していける空間であると日々実感しています。

サステナブル・スマートシティ・パートナー・プログラムへの期待

これからのSDGsを意識した世界を作るためにまちづくりからコンセプトを作るのは重要な取り組みであり、我々の「障害者が区別なく社会に参加する真のインクルーシブ」と相通ずる理念と思い賛同致します。