ISO等国際標準規格認証取得

日本初(※)となるスマートシティの国際認証ISO37106を取得(BSI認証)した「サステナブルでWell-beingな街づくり」の舞台裏

目次

はじめに

現在、世界各国で急速に進むスマートシティへの取り組み。最先端のICTを活用し、都市課題を解決するとともに、持続可能で豊かな街づくりを行うことがその目的だ。それに伴い、スマートシティの成熟度合いを示す“客観的なモノサシ”として、国際標準化も進められている。その代表的な規格の1つがスマートシティの運営プロセスを評価するISO37106である。2022年1月、日本で初めて(※)「名古屋市・東桜街区開発プロジェクト」がその認証を取得した。本プロジェクトの概要、ISO37106の取得の経緯と狙い、それがもたらす価値、今後の展開について、5人のキーパーソンに話を聞いた。

NTTアーバンソリューションズ株式会社
デジタルイノベーション推進部
担当部長 高田 照史氏
担当部長 中矢 順一郎氏
担当課長 浅見 和矢氏
主査 岸 裕子氏

株式会社NTTデータ経営研究所
地域未来デザインユニット
マネージャー 古謝 玄太氏

「人」にフォーカスした最新の次世代型先進オフィスが竣工

愛知県・名古屋市で注目の街づくりが進められている。次世代型先進オフィス「アーバンネット名古屋ネクスタビル」、「アーバンネット名古屋ビル」、商業施設「Blossa」と一体的に整備する「東桜街区プロジェクト」だ。

このプロジェクトの概要について、NTTアーバンソリューションズの高田 照史氏は次のように語る。

「コンセプトは『タスクやコミュニケーションを時間と空間から解放し、新たな発見と創造を生み出す場』です。何よりも意識したのは、そこで働く人や近隣住民まで含め、人を中心としたこと。大切な人生の中で、ワクワクして働いたり、快適に過ごせる環境を最先端の技術と空間を使ったりして実現しようと考えました。最新のオフィスビルの場合、ICTの導入が目的化してしまうケースもありますが、そこで働く人、街区で暮らす人たちに利便性、居心地の良さ、快適さを感じてもらいたい。そんな想いが込められています」

こうした想いを具体化すべく、街区にはさまざまな工夫が凝らされている。
例えば、新たに導入された自社開発の街づくりアプリ「tocoto™」にてビル共用部や飲食店、屋上のスカイテラスの混雑状況を確認することができ、目的に応じて働く場所を自由に選択できる。それだけでなく、ランチ予約、トイレの満空情報、イベント情報等の確認も可能だ。

さらにエレベーター前のゲートで顔認証をすると、行先階が自動で認識されるなど、タッチレスでの入館だけでなく、エレベーターの効率的な運行、待ち時間の最小化なども実現する。

こうした仕組みを支えるのが、ビル内のデータを一元的に蓄積するデータプラットフォームだ。センシングなどによる各種利用データの収集、分析を行いサービス改善、新たな価値創造を絶えず行っていくという。データの利活用によって、竣工後も価値を高め続けられるところに重きを置いているわけだ。

「不動産は竣工時が最も価値が高く、時間の経過とともに劣化していくのが常ですが、デジタル、ICTで経年とともに価値を高めれば、必然的に働く人、暮らす人の満足度も高められます。また竣工して終わりではなく、ユーザーと共に成長し続けるまちであることも重要なポイントです」とNTTアーバンソリューションズの中矢 順一郎氏は語る。

運用で価値を高める思想がISO37106と共鳴した

「成長し続けるまち」という設計思想が、日本では初(※)の認証取得となる国際標準規格「ISO37106」と強くかかわっている。というのも、この規格はスマートシティ運営に関するベスト・プラクティスを提示しており、都市やコミュニティの管理運営体制を構築する際のプロセスについて、ベストプラクティスへの対応度合いを評価するものだからだ。NTTアーバンソリューションズの浅見 和矢氏は、認証の取得をめざした背景をこう語る。

「これからの社会ではオープンイノベーションが重要であり、それには人と人が出会う場が必要です。また、街づくりの普遍的価値として安全・安心があり、人々が快適に働き、暮らしながら、イノベーションが生まれる街づくりとは何か、デジタルを活用しながら試行錯誤してきました。その結実の1つが東桜街区プロジェクトなのです。人を中心に据えた我々の考えと取り組みを、国際基準からみるとどうなのか。それを確認するためにもISO37106の取得は意味があると考え、認証に向けて動き出しました」

国際標準規格「ISO37106」を取得するメリットは?

ISO37106を取得することはスマートシティや持続可能な街づくりに取り組む自治体・デベロッパーにさまざまなメリットをもたらす。

まず大きいのが「プレゼンス・ブランド力向上」だ。例えば、自治体の場合、SDGsに対応し、国際基準以上のスマートシティ運営モデルを実現していることが証明されることで、意識の高い企業による域内投資の呼び込みや産業育成につながり、都市運営ノウハウの海外へのインフラ輸出なども期待できる。またスマートシティ、スーパーシティなど、各府省が定めている方針・ガイドラインと整合が取れた規格であることから、将来的に国家プロジェクトへの採択に有利になる可能性もあるという。デベロッパーの場合、テナントの誘致効果、不動産価値の向上、国際基準の再開発をほかのプロジェクトへ展開できるといった可能性があげられる。

また、“人間中心”、“デジタル活用”、“オープンで協調的”を原則とする街づくりを実現することで、新しい価値が生まれてくることも大きなメリットだ。例えば、住民のWell-Beingの実現や住民サービスの品質向上、またはCivic techやスタートアップとの協創によるオープンイノベーションの促進はその一例だ。

もちろん、街づくりと同様、認証は取得して終わりではない。規格内容も時代に合わせて変更されるため、常に認証を維持するためにPDCAをまわしていく必要がある。その結果、提供するサービスは進化し、ガバナンスも強化され続ける。こうして人の幸せ、豊かさにつながるところがISO37106認証取得の最大のメリットといえるだろう。

ISO37106はスマートシティの開発・運用のフレームワーク(ベスト・プラクティス)を提示し、都市ビジョンの策定、開発、運用、リスク管理までが一連のフローとなるよう構成されている。「デジタルを活用しながら、ステークホルダーを巻き込み、街づくりを進めているか。特定のテクノロジーがなければいけないわけではなく、ビジョンを持って実装しているか、またPDCAサイクルを回して改善がされていく仕組みがあるかが総合的に問われます」と高田氏は語る。

取得までのプロセスは大きく2段階あり、書類による1次審査。そして、現地でのヒアリングを含む2次審査だ。まず、ISO37106という規格の内容、要求項目、取得までのプロセスを学ぶところから始まった。

その一方で、新たなチーム体制も整備した。NTTアーバンソリューションズのデジタルイノベーション推進部が中心となりプロジェクト全体を統括・推進。NTT都市開発のプロジェクトマネジメントチームが、建築・設備、ICTサービスと基盤整備を担当し、NTTアーバンバリューサポートが管理運営を担うかたちだ。これに加え、NTTデータ経営研究所もサポートに加わった。

「ISO37106の理解に向けた勉強会など、規格が求めていることを精査するとともに、今回のプロジェクトで何を提示すべきか、何が足りないかを読み解き、申請主体であるNTTアーバンソリューションズへ共有するプロセスについては、NTTデータ経営研究所が実施しました。審査にあたっても、提示資料やQ&A資料の作成サポートなど、伴走型の支援を行いました」とNTTデータ経営研究所の古謝 玄太氏は話す。

「今回の取り組みは、NTTグループとして推進するサステナブル・スマートシティ・パートナー・プログラムの一環という側面もありました。今後の街づくりの主役である、地域・住民のWell-Beingの最大化をサポートするツールの1つとして、ISO37106には意味があります。日本全体にひと中心のWell-Beingな街づくりを推進する先行事例としても、取り組む価値は大きいと考えています」(古謝氏)

日本初(※)の認証に向けて、グループ一丸となって取り組んだ

こうして始まったプロジェクトだが、日本では初めて(※)の認証取得となるだけに、さまざまな苦労もあったという。まずISO37106はスマートシティに取り組むコミュニティであれば規模の大小は問わないが、規格の要求項目について、自治体が取得する場合を想定して記載されているため、民間事業者が手掛ける、街区開発のプロジェクトとして申請するには、規格の読み替えが必要だった。

「NTTデータ経営研究所からISO認証の知見を得ながら、プロジェクトメンバーが集まり、議論を重ねました。各項目の相関性を東桜街区に落とし込むとどうなるか。きちんと読み替えるプロセスは、想像以上に苦労しました。例えば審査項目の『公平な調達』はその1つ。自治体であれば公募という手段もあるが、民間事業者ではそうもいきません。調達の条件を細かく設定し、そこに合う事業者を選ぶというプロセスを明確化・透明化しました」とNTTアーバンソリューションズの岸 裕子氏は振り返る。

こうしたグループ一体の取り組みを経て、2022年1月、東桜街区プロジェクトは日本で初めて(※)、ISO37106の認証を受けた。審査ではどこが評価されたのだろうか。

「やはり、竣工して終わりではなく、その後も運用によって価値を高める街づくり、という点が評価されたと感じています。NTTグループが持つICTソリューションを導入し、働く人や暮らす人、集う人のデータをフィードバックしながら運用に活かす。デジタルやICTを統括する部門と、現地で運用を担う部門が一体となったモデルを確立したことは、今後の街づくりプロジェクトにも活かしていきたい」とNTTアーバンソリューションズの中矢氏は語る。

プラットフォームで利用データを収集、分析、可視化し、アプリを通して改善、新サービスを提案していく。PDCAによって街区全体の価値を高めるという「人を中心とするコンセプト」が、国際規格に合致していたという点も大きな収穫だ。

ノウハウを蓄積しながら、今後は自治体や街区における認証取得支援も視野に

ISO37106の取得は、今後の取り組みにどんな影響を与えるのか。現時点でこの規格を取得しているのは、日本では「東桜街区プロジェクト」のみであり、そこで培った知見とノウハウは、大きな強みとなる。

「継続して認証を取得し続けられるように、PDCAをしっかりまわしていきたいと思います。また、今回のプロジェクトで得られたノウハウをほかのプロジェクトにも展開しながら、グループとしての、街づくりのプレゼンスを高めていきたいですね」(高田氏)

NTTグループは、コロナ禍となる以前からSDGs、Well-Beingをキーワードに、住民中心の街づくりを支援してきた。今後のスマートシティ開発でも、デジタルを活用しながら、働く人、暮らす人中心の街づくりを進めるのは変わらない。その際、プロセスと運用を重視するISO37106は、1つの指標として大きな意味を持つことになるはずだ。

※日本初…2022年2月24日(木)現在 NTTリリースより

日本初となるスマートシティの国際認証ISO37106取得(BSI認証)
~多様な価値観を認め合う社会の実現に向けサステナブルでWell-beingな街づくりを推進~