ISO等国際標準規格認証取得
名古屋市・東桜街区が世界2例目のISO37106レベル4認証取得
スマートシティにおける国際標準規格の1つ「ISO37106」。日本で初めて*1この認証を取得したのが、NTTグループの手掛ける「名古屋市東区東桜一丁目エリア(以下、東桜街区)」です。そしてこのたび、同街区はISO37106の上位となるレベル4の認証を取得。こちらも日本初*2であり、2023年5月11日には、ISO37106の認証機関を務めたBSI(英国規格協会)から認定証書の授与が行われました。当日はBSIのCEOを務めるスーザン・テイラー・マーティン氏も出席。本記事では認証授与の詳細と、マーティンCEOへのインタビューをお届けします。
*1 2022年2月24日(木)現在 NTTリリースより
日本初となるスマートシティの国際認証ISO37106取得(BSI認証)
~多様な価値観を認め合う社会の実現に向けサステナブルでWell-beingな街づくりを推進~
*2 2023年6月26日(月)現在 NTTリリースより
世界2例目となるスマートシティ国際規格ISO37106のレベル4認証を取得
~サステナブルでWell-beingな社会の実現にむけた街づくりを推進~
目次
- この1年半の「街の運用」が評価され、ISO37106レベル4認証の取得へ
- BSIマーティンCEOにインタビュー。東桜街区プロジェクトで評価した点とは
- 国際標準規格が世界に果たす役割は「飛躍的な進化をもたらすこと」
- 未来のスマートシティに期待する「Well-beingを大切にしたまちづくり」
この1年半の「街の運用」が評価され、ISO37106レベル4認証の取得へ
愛知県名古屋市で行われている新しいまちづくりの取り組み。それが「東桜街区プロジェクト」です。名古屋市東区東桜一丁目エリアにおいて、アーバンネット名古屋ネクスタビル、アーバンネット名古屋ビル、商業施設「Blossa」を一体的に整備するもので、NTTのSustainable Smart City Partner Program(SSPP)の取り組みの一環として、スマートシティの国際標準規格の認証取得に至りました。
東桜街区は、スマートシティの国際標準規格「ISO37106」の認証を2022年1️月に取得。この規格はスマートシティの戦略策定や管理運用のプロセスを評価するものであり、日本初の事例となりました。ISO37106はレベル1~5まであり、当時はレベル3の認証。そして1年半弱が経過した2023年5月、1年半にわたる街の運営が評価され、レベル4の認証を取得しました。こちらも日本初となると同時に、世界でも世宗市に次いで2例目になります。
ISO規格は“認証取得したら終わり”ではありません。認証を維持することが求められます。特にまちづくりは、建物などの形ができたらゴールではなく、実際に人々が暮らす中でPDCAを回し、より良い街を継続的につくり上げていくことが重要。それが認証を高めることにつながります。
5月11日には、レベル4の認定証書授与式がNTTアーバンソリューションズの社内で行われ、NTTアーバンソリューションズ代表取締役社長の辻上広志氏をはじめ、プロジェクトに関わった関係者が多数集まりました。当日その認定証書を渡したのは、英国規格協会(BSI)のスーザン・テイラー・マーティンCEOです。ISO規格の認証を行う場合、対象になるモノやサービスが規格に適しているかを審査する認証機関が設けられます。今回はBSIがその役を務めました。
BSIは、もともとISO37106のベースとなったスマートシティの国際規格「PAS181」を作った機関。また、ISO(国際標準化機構)の発足当初から正会員として所属するなど、国際規格の発展を担ってきました。認定証書授与の場では、マーティン氏から祝福の言葉が寄せられ、プロジェクトメンバーとの記念撮影も実施。和やかなムードに包まれました。
BSIマーティンCEOにインタビュー。東桜街区プロジェクトで評価した点とは
認定証書授与の後、マーティン氏へのインタビューを実施。まずは今回のレベル4認証に対する率直な感想を語っていただきました。
「本当に素晴らしいことだと感じています。スマートシティの領域において、NTTグループが世界のトップランナーであると証明する出来事になったのではないでしょうか」
特にマーティン氏が評価したのは「住民や街区利用者やテナントと一体でまちづくりを行う」という東桜街区の姿勢。例えばエリア内のビルでは、多数のセンサーや自社開発アプリ「tocoto™️」などのICTサービスによって、利用者のデータを蓄積・分析。街の改善に生かしていきます。
マーティン氏は「住民と一緒に持続的なスマートシティをつくるというのは、このプロジェクトの大きな特徴です。人々のニーズや課題をテクノロジーで把握し、それに応える生活体験をつくる取り組みはとても挑戦的ですし、これからの発展がとても楽しみです」と話しました。
また、多くの企業が協力している点も重要だとマーティン氏は口にします。このプロジェクトは、NTTアーバンソリューションズのまちづくりの知見に加え、NTTデータ経営研究所による認証取得のサポート*3、その他にもNTTグループ各社のデジタル活用のノウハウなどが合わさっています。この体制についても「NTTグループのチームワークや、各社のコラボレーションを最大限に生かしたからこそ、今回の評価につながったのではないでしょうか」と分析。今後も企業同士が手を組み、住民と共に、まちづくりを進めていくことに期待していると語ります。
*3 NTTアーバンソリューションズによる認証取得に関しては、認証取得担当者へのISO37106規格内容レクチャーの実施、審査資料の作成支援、担当者向けマニュアルの作成など、NTTデータ経営研究所がレベル3取得時から一貫したサポートを行った。
国際標準規格が世界に果たす役割は「飛躍的な進化をもたらすこと」
今回のISO37106をはじめ、国際標準規格は製品やサービスだけでなく、まちづくりの領域でも存在感を増しています。この動きは世の中にどんなメリットをもたらすのでしょうか。そもそも規格の役割とはどんなものなのでしょうか。この質問に対し、マーティン氏は「規格の役割とは、あらゆる領域において『飛躍的な進化』をもたらすこと」だと即答します。
「なぜなら、規格は学術機関や企業、政府、消費者など、あらゆる人たちのアイデアや意見を組み合わせて生まれた集合知だからです。ベストプラクティスの集約と言っていいでしょう。そしてその規格が国際標準になることで、異なる国や地域が共通の認識・価値観で協力することができます。現在、地球にはさまざまな課題があり、持続可能な未来をつくるには世界中が足並みをそろえることが必要です。国際標準規格はその助けになるのです」
世界のさまざまな課題を解決する上で、国際標準規格は重要な役割になる。一例として、マーティン氏が注目しているのは、温室効果ガスに関する規格や定義作りです。
「近年、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする『ネットゼロ』をめざす機関が増えていますが、実はこれまでネットゼロの明確な定義やフレームワークは設けられていませんでした。しかし、2022年11月に行われたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)では、ネットゼロの定義や条件を決める議論が進んだのです*4」
*4 2022年11月16日発表 BSIグループジャパンリリースより
COP27でネット・ゼロ・アクションを明確にするための新しいグローバル・ガイドラインを発表
同じ文脈でマーティン氏が注目しているのが、「カーボン・オフセット」の定義やルール作りです。カーボン・オフセットとは、温室効果ガス排出の削減分を取引するもの。例えば、ある企業が温室効果ガスの削減目標を立てたものの、その目標に届かなかった場合、他の機関が実現した削減分を購入して埋め合わせるという考え方です。このカーボン・オフセットについても、現在さまざまな組織と議論を重ねているとのこと。「早ければ今年中にはその定義をまとめたいと考えています」と、マーティン氏は展望します。
未来のスマートシティに期待する「Well-beingを大切にしたまちづくり」
まちづくりの観点で社会課題の解決を考えたとき、温室効果ガスの削減といった環境面へのアプローチとともに、人々の内面へのアプローチも重要です。特に最近は、まちづくりによって住民のWell-being(幸福感)を高めることに注目が集まっています。東桜街区もWell-beingの実現は重要な概念の1つ。マーティン氏は、NTTグループが人々の幸せにつながるまちづくりを進めていくことを期待しています。
「AIやDXといったテクノロジーが発展するほど、その対極にある人間の根本的な幸せ、つまりWell-beingは重要になるでしょう。特に日本は少子高齢化の課題が深刻であり、人のつながりや温かみを生み出すことが求められます。NTTグループがWell-beingを大切にしたまちづくりを行っているのは喜ばしいですし、テクノロジーのノウハウも豊富だからこそ、デジタルと人の心の両方を踏まえたスマートシティの実現を期待しています」
ISO37106レベル4認証を得た東桜街区ですが、改めてまちづくりにゴールはありません。引き続き人々の声や動きを見つめながら、より良い街をつくっていきます。その繰り返しが重要であり、まちづくりの本来の姿なのです。